【中国を読む】「中国製造2025」投資ブームに陰り 日本総合研究所・関辰一

 

 中国では、「中国製造2025」などの一連の産業政策を受けて、設備投資ブームが発生した。これは、日本の半導体製造装置や工作機械、産業用ロボットなどの資本財輸出拡大の追い風となった。ところが、ここにきて中国からの工作機械受注が減少に転じた。中国工業部門の設備稼働率が低下していることも気掛かりだ。今後、中国の設備投資が天井を打って減少に転じ、ひいては日本から中国への資本財輸出の減少に至る恐れもある。

 中国では、2016年後半から民間企業の設備投資の伸び率が高まり、18年に入ってからも堅調に拡大している。鉄鋼業や石炭採掘業は、環境規制強化の影響を強く受けて減少しているものの、情報化や自動車の普及拡大、製造工程自動化の動きなどを受けて、通信機器・コンピューター、自動車、汎用(はんよう)機械などの製造業で設備投資が増加している。

 日本の統計をみても、中国向け資本財輸出・受注が急ピッチで拡大してきた。貿易統計をみると、中国向け資本財輸出が急拡大している。日本工作機械工業会によると、17年における中国からの工作機械受注額は3471億円と前年の2.1倍となった。

 いずれも、リーマン・ショック後の4兆元(約69兆円)の景気対策が設備投資の大幅増をもたらした09~10年に匹敵する拡大ペースである。

 受注減少に転換

 もっとも、18年に入り、中国からの工作機械受注額は減少に転じた。4月の水準はピークとなった昨年11月から36.5%も減少している。こうした動きは、今回の中国における設備投資ブームの終焉(しゅうえん)を示唆するものかもしれない。国家統計局が最近になって公開し始めた工業部門の設備稼働率をみても、1~3月期は低下に転じた。供給能力の拡大ペースがあまりに速かったため、設備の過剰感が強まっている可能性がある。

 今回の中国における設備投資ブームの火付け役は、政府による産業政策である。

 具体的にみると、15年5月に発表された製造強国を目指す「中国製造2025」をはじめとして、同年7月にはインターネットを各産業と融合させる「インターネットプラス」政策、16年3月には「ロボット産業発展計画」など一連の産業政策が公表された。政府は、消費や生産の各分野における多様なデータをIoT(モノのインターネット)、センサーなどで収集・蓄積し、ビッグデータやAI(人工知能)などを駆使して分析することで、新規ビジネス創出や産業の活性化を図ることを狙っている。

 一連の産業政策が打ち出されると、地方政府による企業誘致が活性化した。液晶パネル最大手の京東方科技集団(BOE)が安徽省合肥市に建設した最新鋭のパネル工場は、工場建設費用として総額460億元かかったものの、同社が負担したのは30億元にとどまり、160億元は銀行融資、270億元を合肥地方政府などが出したとされる。地方間の企業誘致競争は熾烈(しれつ)を極め、破格な誘致条件が提示されてきた。

 政府系が巨額資金

 また、政府系ファンドが産業政策で示された重点産業に対して、巨額な資金提供してきたことも、過剰投資を招いた恐れがある。例えば、半導体産業に特化した「国家集成電路産業投資基金(ビッグファンド)」は数兆円規模で投資を行っている。

 同ファンドは、ハイテク企業グループ・紫光集団(ユニグループ)および湖北省武漢市政府系ファンドと、16年7月に設立された長江ストレージに共同出資した。同社は、中国最大の半導体メモリーメーカーとして、武漢に20年に月産生産能力30万枚、30年に同100万枚の巨大メモリー工場を建設する予定だ。これによって、同社は世界の半導体上位10社に躍り出る可能性がある一方、半導体市場は過剰供給に陥るリスクが懸念されている。

 政府が主導する産業政策は、往々にして過剰投資を招くものだ。その投資ブームがいよいよ終焉を迎える時期に来ているのかどうか、注意してみていく必要がある。

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【プロフィル】関辰一

 せき・しんいち 2006年早大大学院経済学研究科修士課程修了。08年日本総合研究所入社、15年から調査部副主任研究員。拓殖大学博士(国際開発)。専門分野は中国経済。著書に「中国 経済成長の罠」。36歳。中国上海出身。