【マネー講座】《「もらう」相続》(4)〈事前の対策〉相続を“争族”にしないために

 

 最終回となる今回は、財産というバトンを上手に引き継ぐために、相続開始前にぜひ準備したいことについて説明します。(りそな銀行 折原和仁)

重要なのは節税よりも分割方法を定めること

 相続対策とは相続税を節税すること。財産を遺す人にはそう思っている人が少なくないようです。でも、相続を受ける人、たとえばあなただったら何を一番重視しますか?

私なら「欲しい財産を争いなく確実に手に入れること」を重視します。

 節税対策をしていたとしても、遺産分割協議が調わないかぎり、ほとんどの節税効果は絵に描いた餅になってしまいます。

 でも、相続人だけで円滑に遺産分割協議を調えるのはとても難しいことです。人間関係が一旦崩れてしまうと、話し合いの場に出て来なかったり、感情的になって一方的な主張を繰り返したりするなどして、話し合いが全く進まなくなることもしばしばです。そうなると争いが何年も続くことになってしまいます。

 だから、節税対策よりも「遺産分割協議をしないで相続できる方法」を準備しておく方が望ましいです。

親世代に遺言を書いてもらうことで争いを防止できる

 「遺産分割協議をしないで相続できる方法」として代表的なのは、財産を遺す人に遺言を書いてもらうことです。適切な内容の遺言があれば、相続争いを未然に防止することが可能です。

 また、遺産は相続人しか相続できませんが、遺言があれば、子が生きているときの孫など相続人以外の人にも遺産を引き継ぐことができます。

 通常使用される遺言の方式は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3通りあります。

 自筆証書遺言は、全文を自書し、日付と氏名を記載して捺印します。

 公正証書遺言は、証人2名の立ち会いのもと、公証人に遺言の趣旨を口授し、公証人が筆記します。

 秘密証書遺言は、遺言書を作成して封入します。証人2名の立ち会いのもと、公証人に提出して封筒に署名します。

 このうち、トラブル防止という観点から公正証書遺言が最も望ましいと言えます。

 ちなみに、今後法令を改正し、自筆証書遺言に自筆ではない財産目録(各ページに署名押印)を添付する取扱を認めること、また法務局(登記所)で自筆証書遺言を保管する制度を発足させること(法務局が保管する遺言は検認不要となる見込み)が計画されています。

 受ける人が欲しい財産・要らない財産を、財産を遺す人は必ずしも正しく理解していないのが普通です。だから自由に遺言をしてもらうと、たいていの場合は困った内容の遺言になってしまいます。

 相続は財産のリレーのようなもの。遺す人と受ける人との共同作業です。一緒に財産を洗いなおして、もらって負担になる財産があるのなら生前に処分するなど対応策を検討しましょう。

 誰かが引き取らざるをえないのなら引き取る人を定め、その人には代わりに金融資産を多めに配分するなど、相続人の間で不公平感が生じないように配慮した遺言を作成してもらいましょう。

 遺言以外の方法では、一番確実なのは財産を生前に贈与してもらうことです。

 また、信託銀行が提供する信託商品(「資産承継信託」などの遺言代用型信託と言われる商品)を利用する方法もあります。

昨今は「家族信託」(親族が「受託者」として財産を管理する信託契約)も注目されていますが、実際に活用するにはコスト面や事務面でまだまだ課題が多く、容易には利用しにくい状況です。

遺言がトラブルを引き起こす?

 残念なことに、遺言の内容がきっかけとなって相続争いが生ずるケースも少なくありません。

 しかし、争いを起こす遺言はたいてい以下のような問題を抱えています。だから、このような問題が生じないように注意して遺言をしてもらえばよいのです。

 ・相続人の誰も希望しない、遺言者が独りよがりで決めた財産配分であるもの

(生前贈与や介護などの事情を無視した財産配分であるもの)

 ・一部の相続人だけに相談して作成した、その相続人が特に利益を受ける、または他の一部の相続人が特に不利益を受けるような財産配分であるもの

 ・遺言者の判断能力が低下した状況になってから作成したもの

遺言をするのであれば、併せて遺言者の「想い」を「付言」として書いてほしいものです。そうすれば、遺言者の思いやりが相続人に伝わり、末永く仲の良い家族関係が続くことにつながるでしょう。

「親孝行」から始めましょう

 でも、両親など財産を遺す人に遺言を書いてほしい、まして生前贈与してほしいなどとは、なかなかお願いしづらいですね。まずは信頼関係の構築が基本ですので、広い意味で「親孝行」から始めましょう。

 財産を遺す人から信頼を得られれば、相続などについての相談もしてくれるでしょうし、万一の時も、他の相続人たちからも「あれだけ親身に世話をしていたのだから、財産を相続するのも当然」と思ってもらえるかもしれません。その上でお彼岸などの機会をとらえて、将来墓地の管理はどうするのか、など話を向けてみてはいかがですか。

 ぜひとも生前に確認しておきたいポイントには、次のようなものがあります。

 ・ネット銀行やネット証券会社など、インターネット上の取引をしているか?

 ・どのような不動産をもっているか?(先祖の出身地や別荘地など、自宅以外のエリアに不動産を持っていないか?)

 ・本人や兄弟など親族が事業をしている場合、借入金の連帯保証人になっていないか?

個人的に用立てているお金はないか?

 ・葬儀の生前予約などをしていないか?

財産を遺す人の判断能力がしっかりしているうちに、どの財産をだれに引き継いでもらうのか、相続人が納得する内容で遺言書を書いてもらいましょう。

 4回にわたって相続について説明してきました。相続を巡る事情は家族ごとにすべて異なりますから、当然ながら全部を説明しつくすことはできません。でも、財産を遺す世代と受ける世代がきちんと連携しないとスムーズに財産を引き継ぐことはできない、という点は共通です。

 財産の中にはもらって嬉しい財産ばかりではなく、欲しくない財産も少なからず含まれます。ぜひとも財産を遺す人が元気なうちに協力して準備をすすめ、末永く仲の良い幸せな家族であり続けていただきたいと願っています。(おわり)

【プロフィル】折原和仁(おりはら・かずひと)

りそな銀行信託ビジネス部信託管理室
アドバイザー
1961年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1983年、りそな銀行に入社。ロンドン、ニューヨーク勤務などを経て、2003年から遺言信託業務に就く。2007年から全店の遺言信託案件を審査する最終責任者として現在に至る。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(CFP)、日本証券アナリスト協会検定委員(CIIA)。著書に『円満相続への道』(主婦の友社)。

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