【論風】総合的な競争政策は誰が担うのか デジタル革命にらみ議論を
□経営共創基盤CEO・冨山和彦
世界的に競争政策が曲がり角を迎えている。従来は、独占禁止法を軸に、市場独占や不公正な競争手段を使って競争制限を行い、消費者の選択肢を奪って不当に高い独占価格を甘受させることを排除することが、ほぼすなわち競争政策だった。そこでは市場シェアを高める合併の審査や、価格カルテルを厳しく監視、取り締まることがすなわち競争政策当局、わが国であれば公正取引委員会の主な仕事となる。
データ独占が問題に
しかし、一方でネットの世界でグーグルやアマゾン・コムのようなメガプラットフォーマーと呼ばれる企業が登場し、伝統的な競争法が想定していない新しい競争モデルで圧倒的な市場地位を作り、昨今は自社のサービスを通じて手に入る膨大なデータ量を武器に競争優位を構築する「データ独占」状況が生まれている。
これが多くの国で政治問題化し、各国の独禁当局は問題視しつつも、既存の競争政策の枠組みでは決定的な対応策が見いだせない状況が続いている。
欧州連合(EU)などでは個人情報法保護を持ち出して、メガプラットフォーマーの動きを制限する、いわば「総合的」な競争政策を模索する動きも出ている。他方、日本がその最典型だが、少子高齢化が問題となっている先進国では地方の過疎化が顕著だ。
そこで競争状態の維持こそが消費者利益と考えるナイーブな世界観で競争政策を展開すると、特に密度の経済性が大きな意味を持つ地域密着型産業、すなわち地域運輸サービスや地域金融などでは、ビジネスを成り立たせる最低限の経済密度を満たせなくなった地域から事業者が撤退してしまう問題が現実化しつつある。
最近、話題になっている長崎県における地方銀行の合併問題がそれである。ここでは独占によって生じうる不利益(金利上昇、貸し渋りなど)と、地域から金融機関が撤退して地域の消費者や中小企業がナショナル・ミニマムとして享受すべき公共財的な意味での金融サービスを受けられなくなる不利益との間で、いかに適切なバランスを取るかという、まさに「総合的」な競争政策が求められている。
しかも、いずれの場合も、狭義の競争法、競争政策では手に負えない問題である上に、社会的にも技術的にもさまざまなイノベーションが起き、それがグローバルなうねりとなってあっという間に各国を包み込む時代において、迅速かつ大胆な総合的競争政策対応が問われている。
“戦略官庁”不在
私の経験では、このダイナミズムとスピードに対応し、かつグローバルなルール作りをリードして国民経済の利益に結び付ける「戦略官庁」役を担う組織能力は、他の官庁はもちろん、今の公正取引委員会にもあるとは思えない。法を適正、厳正に運用する組織として、公正取引委員会は実にモラルが高く誠実に職務を執行していることを、私は非常に高く評価している。しかし、ここで問われている組織能力はそれとは異次元の戦略的、創造的、能動的、機動的、国際的な能力である。
しかも創造していくルールの多くは国内だけでも複数官庁にまたがるものばかり。今の実態ではその調整だけで何年もかかり、国際的なルール作りでは後手を踏み、結局、「欧米ではこうなったので日本でも…」という明治開闢(かいびゃく)以来150年にわたり繰り返された途上国型の政策展開になってしまう。
過疎化地域における新たな競争政策、デジタル革命がロボティクスや自動運転などリアルビジネスモードに移るなかでの競争政策のあり方など、わが国が世界に先駆けて新しい競争ルールの枠組みを提示するチャンスが次々と訪れる中、総合的な競争政策の担い手をどうするのか。既存の組織防衛や既得権に固執しないイノベーティブな議論を関係者が始めることを切に期待する。
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【プロフィル】冨山和彦
とやま・かずひこ 東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)修了。1985年ボストンコンサルティンググループ入社、産業再生機構代表取締役専務(COO)などを経て2007年経営共創基盤(IGPI)設立。13年4月から経済同友会副代表幹事。58歳。和歌山県出身。
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