【ビジネス解読】会長死去で揺れる韓国LG 若き「4代目」実績不足で混乱も
韓国LGグループが揺れている。「LG」ブランドを世界的に高めるのに尽力した実力派会長の具本茂(ク・ボンム)氏が5月20日に死去した。韓国の大手財閥で初めて4代目総帥の選出を迫られているが、有力候補はかつて実績不足で継承が見送られたとされる若き養子。経営手腕は未知数だ。LGは中国企業の台頭で、注力してきたディスプレーと電池が苦戦を強いられているだけでなく、国内経済の悪化にも直面する。経営のかじ取りは難しさを増す。突然の代替わりが混乱を招き、ピンチに陥りかねない。
「尊敬を受ける立派な財界の巨星」。“経済民主化”を掲げ財閥改革を断行する文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、本茂氏の死をこう悼んだことがインターネット上で取り上げられるほど韓国国内は衝撃を受けた。73歳だった。聯合ニュース(日本語電子版)によると、昨年から今年にかけ数回にわたり、脳の手術を受けていたという。
本茂氏が長男として父親の滋景(ジャギョン)氏の後を継いで会長に就任したのは1995年。まず名称を「ラッキー金星グループ」から「LGグループ」に変えた。企業ロゴは赤地の丸にLとGと書かれたものを採用。その後、中核となる電機や化学事業のほか、通信サービスや自動車部品、ディスプレーなどの成長分野に進出するなど、積極的に事業を展開した。
韓国財閥で初めて持ち株会社に移行し経営の透明性を高めたことでも知られる。政経癒着問題に揺れるサムスングループや韓国ロッテなどとは異なり、政治と一定の距離を置くことを貫き、LGに清廉なイメージを植え付けた。本茂氏がグループを率いた95年から2018年の間に売上高は5倍超の160兆ウォン(約16兆円)に拡大した。
本茂氏が韓国を代表する財閥に育て上げたLGグループは今後、一人息子でLG電子常務の光謨(グァンモ)氏(40)が率いることになると聯合ニュースは報じた。光謨氏は本茂氏の弟、本綾(ボンヌン)氏の長男。息子のいない本茂氏が04年に養子に迎えた。同グループは光謨氏がグループの持ち株会社「LG」の取締役に就く人事を内定しており、6月29日開催の臨時株主総会で承認を得て4世経営を本格化するとみられる。本茂氏のもう一人の弟で副会長の本俊(ボンジュン)氏が一時的に就くと予想する声もあるが、登板説は後退しつつある。
ハンギョレ新聞(日本語電子版)によれば、光謨氏は本茂氏の息子が早くに亡くなったため本家に養子として入った。長男がグループを継ぐ「長子中心経営権継承」という慣例があるためだ。米国留学を経て06年にLG電子に入社。LGでは経営戦略を担い、グループの主力事業と未来事業を取りまとめ事業ポートフォリオの作成などに取り組んできたが、巨大グループを率いるだけの実績があるとは言いがたいようだ。
外部の見方も厳しい。LGの世代交代に関心を示すある野党国会議員は「グループ内ですら顕著な経営成果を見せていないという評価だ。(今回の継承が)公正な待遇と正当な競争を核心とするLGの『正道経営』に沿っているのか」と首をかしげる。日本の一部メディアも、創業家の家長優先主義的な考え方はダイバーシティー(多様性)が進む現代に逆行する意思決定との批判を招くリスクがあると指摘する。長男という理由だけでこのまま会長に就任するなら、株主の理解を得られないとの声も少なくない。
経営環境の変化も光謨氏にとって逆風だ。ディスプレー事業は、本業のもうけを示す営業損益が今年1~3月期に四半期として5年ぶりに赤字(赤字額は983億円ウォン)に陥った。長年世界首位を守ってきた液晶パネルの出荷量が中国国有のディスプレー最大手、京東方科技集団(BOE)に抜かれて規模のメリットが薄れたことなどが要因だ。切り札の有機ELパネルも搭載テレビの普及が進まず不調が続く。採算性の良いスマートフォン向けの中小型を模索するものの、サムスン電子が圧倒的なシェアを握るだけに道は険しい。
リチウムイオン電池は車載用が振るわない。16年に中国政府からLG製を搭載した電気自動車(EV)が補助金の対象から外されたためだ。現地工場を増強し巨大市場を攻略する方針だったが当てが外れ、それ以降、中国勢との差が広がっている。
さらに追い打ちをかけるのは国内経済の悪化観測だ。中央日報(日本語電子版)によると、現代経済研究院は4~6月期の国内経済について設備投資などが低調で景気下降速度が予想以上に速く進行しているとし、「景気後退」局面を超えて「景気低迷」に入ると発表した。
「LGブランドは顧客のより良い暮らしのための革新の象徴であり、本当の“一等LG”に成長し永続できるよう最善を尽くしてほしい」。ハンギョレ新聞が会長就任20周年の際に伝えた本茂氏の社内向けメッセージだ。
6月下旬の株主総会で光謨氏が取締役に選任されたとしても、それに対する賛成率次第では求心力の維持はおぼつかない。ステークホルダー(利害関係者)の目も一段と厳しくなる。精神的支柱だった先代の遺訓「一等LG」。新たな後継者は遺訓を胸に成長軌道を描けるか。LGは正念場を迎えている。(佐藤克史)
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