【ルピーの世界】インド小売業者、外資ネット通販拡大に抗議

 
米小売業大手ウォルマートによる印ネット通販大手の買収を受け、抗議活動を行う小売店主ら(AP)

 ■米2社参入で政治介入要求

 急成長が見込まれるインドのインターネット通販市場に外資系企業が相次いで参入している。米小売業最大手のウォルマートは、印ネット通販最大手フリップカートを買収し、本格参入を決定。先行する米アマゾン・コムも50億ドル(約5500億円)を投じてシェア拡大を狙う。魅力的な“巨象”の懐に飛び込めるのはどちらか注目される一方、外資参入に危機感を覚える国内業者による抗議活動が熱を帯びつつある。

 最も魅力的な市場

 「インド小売市場は、その規模や成長性という視点から、最も魅力的な市場の一つだ」

 ウォルマートのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)はフリップカート買収に伴う声明で、インド市場への熱い思いを吐露した。

 ウォルマートは5月9日、フリップカートの発行済み株式の77%を160億ドルで買収し、経営権を取得することを発表した。ウォルマートによるネット通販企業への投資としては、過去最大規模となる。

 フリップカートは2007年創業。調査によって幅があるが、子会社であるファッション販売サイトを含めれば、ネット通販市場で4割以上のシェアを持つという。2月ごろに買収の噂が持ち上がり、既にインドに進出するアマゾンも買収に名乗りを上げたと報道されたが、最終的にはウォルマートに軍配が上がった。

 マクミロンCEOが言及した通り、インドのネット通販市場は中間所得層の拡大と安価なスマートフォンの普及に後押しされ、爆発的な伸びをみせている。

 米調査会社イーマーケターによると、今年のインドのネット通販の市場規模は327億ドルの見通しだが、22年には719億ドルにまで急成長するという。22年には国民の4割強、実に5億人以上がインターネットで買い物をするようになると見込んでいる。

 フリップカートを逃したアマゾンだが、今年に入って既に50億ドルの追加投資を表明しており、シェア拡大に躍起だ。シェア3位の「ペイTMモール」には中国電子商取引(EC)最大手アリババ集団が出資する。各国の大企業がこぞって魅力的なインド市場に熱い視線を送っていることは間違いない。

 だが、ビッグディール(大規模な取引)は、激しい抗議活動も引き起こしている。

 フリップカート買収が発表された直後から、小売業者を中心とした100を超える団体が抗議の意思を表明。小売業者で作る全インド小売業連合(CAIT)は、日本の公正取引委員会に相当するインド競争委員会(CCI)に異議を申し立て、6月17日にはゴヤル財務相代理に「(買収は)インドの小売業にとって致命的なものとなるだろう」との書面を送付し、阻止に向けて介入するよう求めた。

 規制適用外

 CAITは、フリップカートとアマゾンが繰り広げるであろう値下げ合戦によって、小売業者が影響を受ける可能性があると主張する。インドの店舗型小売業には外資参入規制があるが、ネット通販は適用外。CAIT側はネット経由での外資参入に危機感を募らせる。

 政府は特にコメントを出していないが、要求を黙殺できない理由がある。小売店主たちは、モディ首相が所属する国政与党インド人民党(BJP)の大票田であるためだ。小売り事業主は全国で6000万人ともいわれ、その家族や従業員も含めると関係者は1億人を軽く超える。インドは来年に総選挙を控えており、対応を間違えればBJPの大ダメージとなりかねない。

 地元経済アナリストは「既にネット通販に押されている小売店の危機感は深刻だ」とした上で、今後、抵抗運動が盛り上がれば「政府がウォルマート側に零細商店支援のための支出を求めるなど、何らかの介入をする事態もありうる」と分析する。外資企業の参入によるインパクトは、インド経済のみならず政治の世界にも及びそうだ。(ニューデリー 森浩)