「キャッシュレス決済」加速へ産学官連携組織発足 五輪へ向けて巻き返し

 
キャッシュレス決済を導入したレストランのレジ

 経済産業省は3日、現金を使わずに支払いをする決済手段の普及推進に向けた産学官の連携組織「キャッシュレス推進協議会」を設立したと発表した。2次元バーコード「QRコード」を使った決済の規格統一などに取り組む。非現金決済が普及すれば、店舗や窓口に現金を用意する手間やコストを減らせると期待されており、2025年までにキャッシュレス比率を40%に引き上げる目標の実現に向け、弾みをつける。

 発足は2日付。初期メンバーにはNTTや三越伊勢丹ホールディングス、みずほ銀行など民間企業145社のほか、日本スーパーマーケット協会や全国地方銀行協会など20の業界団体が名前を連ねた。自治体会員として和歌山県も参加する。今年度はQRコード決済の標準化のほか、自動販売機のキャッシュレス普及促進にも取り組む。

 日本はわずか18%

 「マイルストーンは五輪だ」

 今回の推進協議会の立ち上げについて、銀行関係者は20年の東京五輪・パラリンピックを見据え、キャッシュレスに慣れた訪日外国人が利用しやすい決済環境の整備が急務になっていると漏らす。

 経済産業省が今年4月にまとめた報告書によると、諸外国におけるキャッシュレス決済の比率は40~60%で、国を挙げて推進した韓国は90%に達する。一方、日本はわずか18%にとどまっている。

 クレジットカードやデビットカード、電子マネーなどキャッシュレス決済カードの1人当たりの保有枚数は日本が8枚弱で、主要国の中ではシンガポールに次ぐ多さだ。それでもキャッシュレスが根付かないのは、消費者や店舗がメリットを実感できずにいるからだ。

 日本では全国にATM(現金自動預払機)網が張り巡らされ、消費者が現金を手軽に出金できる。店舗側もキャッシュレス決済手段が混在する中、それぞれのデータ読み取り端末を設置するには費用がかさむため、導入に二の足を踏んでいる。

 だが、このままでは日本の決済手段は世界の潮流から取り残され、訪日外国人客の利便性は大きく損なわれる。キャッシュレス決済の出遅れは、企業にとっても業務効率化やイノベーション、新たなサービス創出の足かせになるとの見方は強く、手をこまねいていればビジネスチャンスを海外勢に奪われかねない。

 既に、中国で圧倒的なシェアを誇るスマートフォン決済「支付宝(アリペイ)」は日本人向けのサービス開始を検討。当初予定の今春からは延期されたが、邦銀は消費者の購買情報が中国に流出することへの懸念を強めていた。

 QRコード規格統一

 こうした中での協議会の発足は、“オールジャパン”での巻き返しが狙いで、QRコードの規格統一はその初手となる。

 QRコードを使った決済サービスは、無料通信アプリ大手、LINE(ライン)の「ラインペイ」やNTTドコモの「d払い」など企業がそれぞれ動いているが、異なる技術仕様が乱立すると決済が煩雑化し、普及の妨げになるため、まずは同じQRコードで決済できるようにする。

 協議会に先駆け、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の大手3行はQRコードの規格統一で合意済みだ。低金利による収益悪化にあえぐ銀行はATMや店舗網の維持が負担になっており、キャッシュレスを推進したいのが本音。IT企業や携帯電話会社などと一緒に規格づくりができれば「オールジャパンを打ち出し、加盟店も獲得しやすくなる」(銀行関係者)と期待する。

 ただ、協議会に参加する個々のメンバーで、キャッシュレス決済の導入の狙いやサービス戦略は異なる。それだけに利害関係や主導権争いを乗り越え、キャッシュレスの普及推進で真に一枚岩になれるか。消費者や店舗からみてメリットがある利用者本位の仕組みの構築が焦点になる。(米沢文、万福博之)