国会最終盤はIR攻防 自民は公明配慮で内容譲歩、「深夜国会」でも成立方針、野党徹底抗戦
今国会の会期末が22日に迫る中、参院で審議が大詰めを迎えるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)実施法案の行方が焦点になっている。政府は経済効果を期待し、法案を確実に成立させるため今国会を32日間も大幅延長したが、主要野党は安倍晋三内閣不信任決議案の提出を検討するなど、徹底抗戦する構えだ。最終盤まで緊迫した与野党攻防が展開されることになる。(今仲信博、小沢慶太)
「最後までしっかり粘り強く丁寧に審議し、皆さんにも協力をお願いしたい」
自民党の愛知治郎参院議員副会長は15日のNHK番組でこう述べ、IR実施法案の今国会成立に重ねて理解を求めた。
17日の参院内閣委員会では、採決の前提となる首相入りの質疑が行われる。法案は衆院内閣委で18時間10分、質疑を行った。参院内閣委で17日に予定通り質疑を実施すれば、これを上回る。与党は採決の前提条件が整ったとして、遅くとも19日の同委で採決し、20日の参院本会議で成立させる方針だ。
IR実施法案は、安倍政権が経済成長の柱とし、今国会の重要法案の一つと位置づけている。しかし、最初の大きなハードルとなったのは連立政権を組む公明党だった。
公明党にはカジノ解禁に慎重な支持者が多い。そのため自民党は説得に奔走した。政府の当初案では日本人の入場料は2千円としていたが、与党協議の過程で6千円と大幅に引き上げ、公明党に譲歩した。
6月20日までだった国会の会期を1カ月以上延長したのも、公明党が来年春の統一地方選、同年夏の参院選への悪影響を懸念し「法案処理は確実に今国会で終えてほしい」と求めたからだ。
公明党の西田実仁参院幹事長は15日のNHK番組で、同党が採決の前提としたギャンブル依存症対策基本法が成立したことを踏まえ、IR実施法案の今国会成立に理解を示した。
国会末に野党が抵抗手段として内閣不信任決議案を提出するのは恒例となっている。ただ、今回提出された場合も否決されるのは確実で、与党は平日最後となる20日の参院本会議を「徹夜国会」としてでも確実に成立させる方針だ。
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立憲民主党や国民民主党などの主要野党はIR実施法案の成立阻止を目指し、内閣不信任決議案提出のタイミングを探りながら徹底抗戦を貫く構えだ。
立憲民主党の蓮舫副代表、自由党の森裕子参院会長ら野党幹部は15日のNHK番組で、西日本豪雨を引き合いに、IR実施法案成立を急ぐ与党を牽制(けんせい)した。
蓮舫氏「『ギャンブル法案』を災害復旧の最中に強行採決するのは絶対にやめていただきたい!」
森氏「災害対応を最優先すべき石井啓一国土交通相が『カジノ大臣』としてカジノの審議を優先している。おかしいではないか」
主要野党は、法案担当の石井氏は災害対応に専念すべきだと訴え、法案を審議する参院内閣委員会の開催自体に強く反発している。衆院に舞台を移した参院定数を6増する公職選挙法改正案にも反対で足並みをそろえるが、あくまで「本丸はIR実施法案」(立憲民主党参院幹部)だ。
衆院に先立って行われた参院の公選法改正案の審議では、選挙制度改革の会派間協議で指導力を発揮しなかったとして伊達忠一議長の不信任決議案提出も検討したが、IR実施法案の参院審議を見据えてカードを温存した。
立憲民主党などは一時、今月上旬の内閣不信任決議案提出も検討した。西日本豪雨を受け封印したが、最終盤で状況をにらみながら「伝家の宝刀」の機会を見極めることになる。
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IR(統合型リゾート施設)は英語のIntegrated Resortの略。カジノを中心にホテル、劇場、レストラン、見本市を開くコンベンションセンターなどを併せ持つ大規模施設を指す。観光振興を目的に公共政策として導入したシンガポールは2つのIRの整備で約1兆円の民間投資が実現し、消費や雇用が拡大したとされる。
こうした状況を踏まえ、政府はIRを成長戦略の柱に掲げており、安倍首相は6月1日の衆院内閣委員会で「わが国を観光先進国に引き上げる原動力となる」と意義を説明した。
IR実施法案は、IRの設置の上限を当面3カ所とし、最初の区域認定から7年後に見直せるようにする内容。ギャンブル依存症対策としてカジノへの日本人の入場回数を週3回、月10回までに制限し、入場料として6千円徴収する。今国会で成立した場合、最初の開業は2020年代半ばと見込まれ、北海道や大阪府、愛知県、和歌山県、長崎県などで誘致の動きがある。
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