【高論卓説】米中貿易戦争の本質は価値観の対立 「一つのルールで動く」グローバリズム終焉へ

 
米軍横田基地で在日米軍兵士らを激励したトランプ大統領=2017年11月(松本健吾撮影)

 世界の新たな枠組みづくりが進んでいる。トランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争は、そのきっかけであり、グローバルサプライチェーン(世界的供給網)の再構築を招き、グローバリズムの終焉(しゅうえん)を加速させるものになるだろう。(経済評論家・渡辺哲也)

 グローバリズムとは、ヒト・モノ・カネの移動の自由化であり、これは東西冷戦の終結により成立したものである。1980年代後半、資本主義・自由主義陣営の西側と、社会主義・共産主義陣営の東側との価値観の戦いは東側陣営の敗北で終わった。

 東側陣営の象徴であったソビエト連邦は崩壊し、ベルリンの壁は壊れ、中国は改革開放路線に切り替えた。これにより、世界は一つになるかと思われたのであった。

 そして、冷戦の最大の勝者である米国のルールで世界は動くかに見えた。日本も米国発のグローバルスタンダード(世界標準)の掛け声に踊り、会計基準の変更や金融ビッグバンによる金融市場の開放に動いた。

 グローバリズムの最も大切な成立要件は世界が一つのルールで動くことであり、ルール違反を許さないことである。スポーツに例えれば分かりやすい。一つの大会で複数のルールの採用は許されていない。中国は改革開放の名の下に、段階的な自由化を行い、最終的には西側陣営のルールに従うとして、自由主義市場への参入を許されたわけである。

 しかし、中国はこの約束を守らなかった。為替一つをとってみても、中国は為替の自由化を約束し、人民元がドル、ユーロ、円、ポンドと並ぶ国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨となったが、いまだそれが実現されず、今後も実現する見込みはたっていない。

 市場開放も同様であり、中国資本による米国企業の買収や他国市場への投資は行われているが、中国市場にはいくつもの規制がかかっている。土地売買も同様であり、中国人が日本の土地を買うことはできるが、中国人すら土地の所有を許していない。これは著しく不公正であるといえる。

 そして、グローバリズムによる恩恵を受けて発展した中国は、「新時代の中国の特色ある社会主義」をうたい、「中華民族の偉大なる復興」と「中国の夢」の名の下に、中国が支配する新たな秩序を生み出そうとしている。当然、これは米国のみならず、資本主義・自由主義への挑戦であり、今の世界秩序の破壊行為であるといえるのだ。そして、米国はこれを阻止するために動き出したのである。

 繰り返しになるが、グローバリズムの成立要件は、世界が自由主義に基づく一つのルールで動くことであり、ルールを守れないのであれば退場してもらうしかないのである。これが米中貿易戦争の本質であり、ある意味では価値観の対立であるとも言える。

 昨今、米国は自由貿易ではなく、自由で公平な貿易という言葉を多用しているが、これは単なる数字の問題ではなく、ルール違反を許さないという意味が込められていると考える。そして、これはまだ始まりに過ぎないのだと思う。米中貿易戦争、これは単なる貿易摩擦ではなく、大きな価値観の対立の側面が大きいのである。

【プロフィル】渡辺哲也

 わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は『突き破る日本経済』など多数。48歳。愛知県出身。