【高論卓説】現預金への金融資産課税が妙案 絶望的な財政状況打開に活路
7月上旬の経済財政諮問会議において中長期の経済財政に関する試算が提示された。「とうとうここまで追い込まれたか」というのが率直な感想だ。特に驚いたのは、プライマリーバランス目標(PB目標、国債などの発行を除く歳入総額で、国債などの元利払い以外の政策経費を賄うこと。これ以上借金が増えない状態)の2025年度での達成が困難なことだ。
というのも6月の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2018)において、PB目標の達成時期を明示的に20年から25年にずらしたばかりであるにもかかわらず、その「舌の根の乾かぬうち」に、その変えたばかりの目標達成が困難だという試算が提示されたからだ。
衝撃的なことに、上記の試算では国内総生産(GDP)成長率を20年代初頭に1%強と設定するベースラインはもちろん、GDP成長率を同時期に2%と設定する楽観ケースですら、25年に遅らせた目標達成は困難となっている。
そもそも日本の国と地方の長期債務残高は、ざっくりと言ってGDP約500兆円(計算方式変更前ベース)の2倍(約1000兆円)となっており、10年の財政破綻時のギリシャ(約1.3倍)を既に大きく上回っている。よく使われる家計の例えは正確性に欠けるが、いずれにしても、良い状態でないことは確かだ。
ギリシャの財政破綻と同じ10年、政府・財務省は、絶望的な財政状況を前に、苦肉の策としてPB目標を編み出した。すなわち、本来は積み上がった借金低減を目標にすべきところ、それが困難なため、目標を「借金がこれ以上増えない状態を作る」ことに後退させたわけである。その20年度の黒字化は国際公約となった。
不幸なことに、直後の11年3月に東日本大震災が発生して多額の財政出動が必要になってしまい、政治情勢が影響して消費増税の2段階目の引き上げ(8→10%)が2度も延期され、この目標達成すら困難になったのが現状だ。さらに、増税財源を用いての教育無償化も公約となり、冒頭述べた通り、延期した25年でのPB目標達成も危うい。
こうした状況下、政府・財務省はどうすべきか。これだけ消費増税が注目されてしまっていて政治問題化してしまった現在、少なくとも10%引き上げ後の追加的消費増税はほぼ不可能であろう。
私は、家計の現預金に対する金融資産課税に活路を求めるべきだと考える。直近の日銀の資金循環統計によれば、日本の家計の金融資産は1800兆円超で、そのうち半分強が現預金だ。仮に1%の増税をすると9兆~10兆円の税収が見込める。消費税の1%増税は約2.5兆円の税収増なので約4倍の効果だ。
こうした議論には、海外への資産移転を激増させるとの反論があるが、果たして、現預金へのごくわずかな課税でそうなるであろうか。むしろ、現預金を投資や消費に回す動きが顕在化して、景気を刺激するのではなかろうか。国際的な法人税引き下げ競争下で企業の「取り合い」が起こっている中、法人課税強化はできない。多少は景気を冷やすリスクがあるものの、家計の現預金へのわずかな増税という本施策こそが、絶望的な財政状況に対する最も現実的な回答ではないだろうか。
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【プロフィル】朝比奈一郎
あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。45歳。
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