【論風】グローバルデータサプライチェーン 官民が協力して確立を

 

 □東京大学政策ビジョン研究センター教授・渡部俊也

 以前、本欄で欧州連合(EU)の個人情報の保護を目的とした「一般データ保護規則」(GDPR)に関する課題について紹介した。その後5月にこのGDPRが施行され、日本でも個人情報に関する規制についての関心が急速に高まった。企業の対策も進むとともに、政府とEUとの間で相互に個人データの移転を認めることで合意したと伝えられている。

 企業活動のカギに

 一方、個人情報を含まない産業活動に関するインダストリデータについても、中国や東南アジア諸国連合(ASEAN)など一部の国・地域で移転や保存を規制しており、今後他国でも規制の動きが懸念される。背景としては個人情報同様、海外企業が自国内企業のデータを使い一方的に利益を上げることへの懸念もあるものと思われる。

 もちろんグローバル化して各国に事業所や生産拠点を有する企業にとって、現地法人のデータ移転に関する規制は望ましくない。できるだけグローバルにデータ共有を行うことによってより多くのデータ量を確保し、データ解析制度を向上させることで生産性向上が図られる。インダストリデータは、今や原材料などと同じく事業活動に欠かせない。経営資産としての重要度を増すデータについても、モノと同じく、円滑なサプライチェーンをグローバルに確立できるかどうかが企業活動のカギになるのである。

 一方、自国のデータは自国に便益をもたらすべきものであるから、囲い込みたいとする考え方も、故なきものではない。自国の資源であるデータが国外でのみ収益化されるということは看過できないであろう。筆者らは最近、日本企業を対象にデータ利活用に関する質問票調査を行ったが、そこではデータの提供者に対する便益が確保されている利活用モデルでなければ、データ利活用自身のパフォーマンスが向上しないという結果が得られている。

 データ提供者や提供地域に対する便益が確保できないようでは、そもそもサステナビリティーがないのだという結論である。そういう意味ではこの問題を解決するインセンティブは産業界にあり、企業自身がデータ提供地域の便益を図っていくことが重要であるということを示している。このような事実を踏まえ、各国政府はグローバルなデータ利活用の規範は産業界の取り組みに委ね、規制は最小限にするという考え方が妥当であると思われる。

 世界初のガイドライン

 そうはいっても、データ提供側と活用側との間の取引に関しては、データの所有権が法律で規定されているわけではないため「データは誰のもの」などの出口のない議論に陥りやすい。このようなことから国内外問わず、データ利活用契約はなかなか合意に至らないことも少なくない。この問題に対して経産省は、多くの専門家の集中討議によって「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」をまとめ、6月に発表した。データや人工知能(AI)利活用に関する契約で定めておくべき事項を参考として示したものだ。

 法規制によってデータ利活用の契約ルールを一律に定めるのではなく、インセンティブを有する産業界の取り組みを支援するツールとして位置付けられるものであり、世界初のデータ利活用ガイドラインとなる。大手企業ではこのガイドラインを歓迎し、早速社内で詳しい実践の検討を行っている会社もある。今後は国内での実践によるPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを確立することに加えて、国際間の取引においてもこのガイドラインを一つの規範として浸透させていくことが期待されている。このような取り組みが浸透することによって、国や地域が過度なデータ囲い込み規制を行うことなく、企業主体の責任あるグローバルなデータ管理と利活用が進むのではないか。その規範の上で各国企業がデータのサプライチェーンの確立を進めていくことが期待される。

【プロフィル】渡部俊也

 わたなべ・としや 1992年東工大博士課程修了(工学博士)。民間企業を経て96年東京大学先端科学技術研究センター客員教授、99年同教授、2012年12月から現職。工学系研究科技術経営戦略学専攻教授兼担。58歳。東京都出身。