【アメリカを読む】トランプ式貿易戦争、破壊力は? 自動車関税など発動なら“大恐慌”匹敵か
トランプ米政権が仕掛ける「貿易戦争」をめぐり、政府関係者らから「1930年代にかけて保護主義が高まり、世界が大不況に転落した過ちを繰り返すな」として、当時の貿易戦争の再来を危惧(きぐ)する声が出ている。当時と現在を比較した通商専門家は「発動済みの米輸入制限は、30年代に比べて小規模にとどまる」との見解を示すものの、国際取引網が緊密化した現代の貿易に及ぼす危険性も指摘されている。(塩原永久)
世界経済のリスク
貿易赤字の解消と、雇用の国内回帰を掲げるトランプ大統領は、3月に発動した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を、6月に欧州連合(EU)などにも適用。7月上旬には、中国の知的財産侵害を理由とした巨額の制裁関税を実施した。
1930年代にかけて激化した貿易戦争の再来を危惧し、「保護主義と攻撃的な政策がエスカレートすれば、30年代のような世界不況を目の当たりにすることになる」(インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相)との声も出ている。
典型的な「貿易戦争」とされる例は、米フーバー政権下で30年、関税法「スムート・ホーリー法」の成立をきっかけに、報復として多くの国が米商品に高い関税をかけたケースだ。
米国は29年に始まった大恐慌の際、国内産業を保護するため、農作物など約2万品目で輸入関税の大幅な引き上げを実施。欧州各国から報復関税を招き、世界貿易が激減して世界不況が深刻化した。
「まやかし貿易戦争」
米国と各国との貿易摩擦について、当初は「まやかしの貿易戦争」(エコノミスト)などと冷ややかな見方もあった。トランプ米大統領が有権者向けにアピールするための、見せかけの強硬策だとの認識が、そうした見方の背景にある。
実際、30年代の貿易戦争と比較すると、当時には及ばない米政権の関税措置の性格が浮かび上がる。
ピーターソン国際経済研究所の専門家、チャド・ボーン氏とダートマス大学のダグラス・アーウィン教授の試算によると、米政権が実施した(1)太陽光パネル・洗濯機の追加関税(2)鉄鋼・アルミ輸入制限(3)340億ドル分の中国製品に対する対中制裁-で関税が適用された対象額は計約920億ドルと、昨年の米輸入額の約4%に相当する規模だった。
一方、スムート・ホーリー法で関税対象となったのは、当時の米輸入額のほぼ3分の1に相当する規模だったという。
また、80年代初期、レーガン政権下で鉄鋼や自動車などへの保護主義的な措置が採られた際には、何らかの貿易制限の対象となった製品の全輸入額に対する比率が「75年の8%から84年に21%へと上昇した」(アーウィン氏)という。
もっとも、トランプ政権が検討中の(1)対中制裁を拡大し、対象額を合計2500億ドルとする案(2)自動車・部品に追加関税を課す輸入制限-がともに実施された場合、「輸入の約25%に輸入制限が適用される」(ボーン氏)計算だという。
輸入制限は関税や輸入割当(クオータ)などの態様や関税比率、対象品の規模や適用期間など、比較の際に考慮すべき要素が多い。歴史上のケースと現代とで単純な比較はできない。
ただ、トランプ大統領が検討中の強硬策をすべて実施すれば、輸入額に対する対象品の規模の点で、歴史的な保護主義政策と肩を並べることになる。
緊密化した貿易へ打撃
貿易が主要議題となった7月21~22日の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、IMFのラガルド専務理事は「世界経済の短期リスクは貿易摩擦によって増大した」と指摘した。通商対立が予想を超えた悪影響をもたらす恐れがあるためだ。
特に自動車や電機・機械などの製造業では、近年、国際的なサイプライチェーン(部品の供給・調達網)が発達し、輸入制限が調達網に打撃を与える懸念がある。自動車部品では、完成車ができるまで国境を数回またぐのが通例で、そのたびに関税が課されればコスト増要因となる。
メーカーにとって、部品の調達先の変更は容易ではない。品質テストや輸送手段の検証、契約の調整などに「最低でも半年以上を要する」(米メーカー)といい、米輸入制限の拡大は当面は販売価格の値上げに直結する可能性が高い。
IMFの試算では、米国が自動車・部品など検討中の輸入制限を実施すれば、世界経済の成長率を0.5%押し下げる。企業が設備投資を先送りしたり、中止したりする影響が大きいとみられ、今後、メーカーが投資計画の下方修正に動き出した場合、投資を重要な「成長エンジン」とする世界の景気を、どの程度、下押しするのか計り知れない怖さがある。
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