フィンランド、国民に最低限の現金配布 人口減に備え、就労意欲にどう影響?
高負担による手厚い福祉で知られている北欧諸国。フィンランドは、生活する上で最低限必要な現金を国民に配る「ベーシックインカム」導入に向けた社会実験を実施中だ。スウェーデンでも、若い技術者の卵の育成に力を入れる。働き方の変化や少子高齢化による人口減少といった日本と同様の課題を抱える中で、克服する道を模索している。
人口約550万人のフィンランドでは、政府が2017年1月から「ベーシックインカム(BI)」の導入に向けた社会実験をしている。「一定の収入があっても、人は働く意欲がわくのか」。国レベルでは世界で初めての取り組みは、今年末まで続く。
一律7万円支給
今回の実験は対象を限定し、20代半ばから50代で失職中の2000人に、毎月一律560ユーロ(約7万円)がBIとして支払われている。失業手当と生活保護を合わせたような新しい社会保障の形だ。失業手当や生活保護は働き始めると給付が減らされるが、BIは実験期間中に仕事を見つけても満額を受け取れる。
フィンランドの失業率は9%を超え、少子高齢化による労働人口の減少も課題になっている。ピルッコ・マッティラ社会保健相は、社会実験の意義について「失業して最低レベルの生活を送り、やる気を失ってしまう国民にチャンスを与えること」と説明する。実験の制度設計をした社会保険庁のオッリ・カンガス平等社会計画担当部長は「560ユーロのBIだけで暮らすのは難しい。生計のために仕事を探す人が増え、就業率の上昇につながる」と説明する。
社会実験に参加しているトゥオマス・ムラヤさんは、新聞社を解雇され、現在はフリージャーナリストとして不定期で働く。「BIは失業手当と違い役所で煩雑な手続きをしなくてももらえるので、仕事を見つける時間が増えた」と評価する。
対象に選ばれた後に、再就職が決まった人もいる。ITエンジニアのミカ・ルースネンさんは「働き始めたばかりで収入が少ないので、仕事をしても満額もらえるBIはありがたい」と話す。
財源確保の“壁”
収入に関係なく全国民に配るのがBIの基本的な考えだが、財源確保という大きな壁が立ちはだかる。経済協力開発機構(OECD)の推計では、フィンランドで全国民にBIを導入すれば、所得税(原則6~30%程度)を約30%分上乗せする必要があるとしている。社会保険庁は来年以降の実験延長を申し出たが、政府は「予算不足」を理由に予定通り2年で終了することを決定。来年にもBIの支給が就労意欲にどう影響を与えたかを検証する。政府の担当者は「失敗を恐れず、社会の変化に合わせて新システムを試すことに意味がある」と強調する。
日本では野党の一部がBI導入を打ち出したことはあったが、機運は乏しい。BIに詳しい中央大の宮本太郎教授(福祉政治論)は、日本で導入を検討するなら(1)支給額(2)生活保護や失業手当など廃止する制度の範囲(3)課税や財源確保の在り方-などの丁寧な議論が欠かせないと指摘。「『まずはBI』という提起では意味がない。導入によってどのような社会を目指すのか、将来図をはっきりと描くべきだ」と話した。
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