【道標】東京の経験、地方へつなげ ボランティアの核、各地に必要

 
奈良女子大准教授の石坂友司氏

 東京五輪・パラリンピックが日々近づいているとはいえ、いま少し盛り上がりに欠けるという声をよく耳にする。開発が進んでいる、競技会場となる東京の一部を除けば、全国各地で五輪への実感がほとんどないのが実情だろう。

 筆者の居住する関西地区に限らず、多くの地方の人たちにとって、東京大会は他人ごとのイベントにとどまっている。

 これら開催地以外の地方は、東京大会とどのように向き合い、付き合っていくことができるのだろうか。国中が盛り上がるべきだとする議論には全く賛同しないが、少なくともこの大会が生み出す遺産を有効に活用することはできるはずだ。

 このことを考える上で、1998年に開催された長野冬季五輪が参考になる。筆者は2008年以降、長野で調査を続けてきた。五輪ではスポーツ関連ボランティアの先駆けとされる組織がいくつも結成され、3万人を超える運営ボランティアが活動した。注目したいのは長野県民にとどまらず、県外からも多くの人々が参集したことだ。

 これらの人々は、長野で開催される競技大会のサポートをはじめ、清掃や里山整備などの環境保護活動に現在でも携わっている。また、来年のラグビー・ワールドカップ(W杯)、東京五輪などのリーダー的存在として活躍が期待されている人もいる。

 イベント時だけの一過性でなく、ボランティア活動が継続した理由は、共に時間を過ごした仲間と再び出会える同窓会的意識や、地域を自らが支えているという感覚にあるという。競技支援は競技者から元気をもらえることもやりがいにつながっているようだ。

 近年、地域活性化のツールとして期待されているマラソン大会の開催をはじめ、地域の課題を解決するためにボランティアの存在は欠かせなくなってきている。10万人以上が求められる東京大会のボランティアは、交通費や期間の長さなど、いくつか問題点が指摘されている。

 これらがクリアされる必要があるが、まず全国から参加し、東京で経験を積んだ人々が、各自の地元でボランティアの核として活動する仕組みができるようにする。ここに行政による支援体制が加わることで両輪ができる。地方へとつながる五輪の遺産となるはずだ。

 もちろん無償のボランティアに多くを期待するべきではない。近年議論されているように、地域住民やNPO(民間非営利団体)が地元の公益をめぐる活動に自主的・自発的に関われるよう、行政は裏方として、その活動を支えるために最大限努めるべきだ。

 また東京大会を、国や東京における都市開発やスポーツ政策の枠組みの議論にとどめるのではなく、各地域のスポーツ環境を見直す契機として利用することも可能なはずだ。総合型地域スポーツクラブをはじめとして、スポーツとコミュニティーの在り方を問う議論を開くことができれば、東京大会は地域にとっても非常に役立つ存在となるだろう。そのような便乗は大いに進めていけばよいのではないだろうか。

【プロフィル】石坂友司

 いしざか・ゆうじ 奈良女子大准教授。1976年北海道生まれ。筑波大卒、筑波大大学院単位取得退学。専門はスポーツ社会学。2013年から奈良女子大准教授。著書に「現代オリンピックの発展と危機 1940-2020」など。