【専欄】中国観光ツアーの“強制消費”はなくならない?
「ガイドがバスの運転手と組んで、土産物屋にばかり連れて行く」「バスが止まるとすぐ物売りがやってくる。売れるとガイドが物売りからリベートを受け取っているのを見た」…。これらは今の話ではない。1980年代頭、中国観光ツアーに参加した日本人の体験談である。その当時、外国人が中国観光旅行に行く場合、一般にはツアーに参加する必要があった。
それから数十年。中国人の旅行規制が緩和されて、一大旅行ブームがやってきた。かつて外国人旅行客の間で起きていた「強制消費」が肥大化し、大きな社会問題となっている。
北京市消費者協会は7月17日、旅行市場の実態調査2018年版を発表した。それによると「北京一日観光」コースの4割で、違法な強制消費現象が見られたのだそうだ。
たとえば「万里の長城・頤和(いわ)園・鳥の巣(国家体育場)・清華大学」をめぐるコース。頤和園内で、ガイドが客に、自費で遊覧船に乗ることを強要したと言う。「そうしないと、時間通りに頤和園の出口に到達できない」
別の某公園では、ガイドが客に、龍のボートに乗るように強制した。一人100元(約1600円)である。「これを払わないと、その後のツアーが継続できない」
北京晨報の記者は「北京・承徳2日間」のコースに参加した。メインである避暑山荘見学にあたり、ガイドが突然、一人150元を支払えと言う。園内バス、遊覧船、ボートの費用なのだそうだ。事前にそんな説明を受けていないと抗議すると、「これらの交通手段を使わないと、集合場所にたどり着けない。別の出口に行ってしまった場合、あなたを迎えに行くことは不可能だ」
そして十年一日、変わらないのは強制ショッピングである。「十三陵では降りて見学する時間はないと言われ、バスで通過しただけ。土産物店に直行した」「観光地では時間がないと言われ、一分一秒も惜しんでせかせるのに、土産物屋では飽きるほどの時間を取っている」「土産物屋に向かうバスで、ガイドが『是非買い物して私の仕事に協力してほしい』と言った」
専門家によると、旅行問題を扱う部門は、旅行局・公安局・工商部・交通局・城管(都市管理監督)局などと多岐に渡り、一律に管理することは難しいと言う。しかし、強制消費の横行は、首都北京のメンツにもかかわる大問題である。
市場経済化は国の発展を促し、人々の生活も豊かにする。しかし、お金に対する欲望が、いびつな形で出現しているのも事実で、強制消費もその一つである。今年も秋の旅行シーズンを迎えるが、解決の糸口さえ見いだせないままというのは、なんとも不安である。(ノンフィクション作家・青樹明子)
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