【視点】家計の投信保有額を下方修正 投資機運に水差す日銀の失態だ
金融業界が揺れている。日銀がまとめた資金循環統計が大幅に修正され、これまで順調に伸びていると思われていた家計の投資信託保有額が、実は減少に転じていたことが判明したからだ。金融業界と政府は「貯蓄から投資へ」との合言葉を掲げ、個人が保有する銀行預金を投資に振り向けるように二人三脚で注力してきた。(産経新聞論説委員・井伊重之)
なかでも投資信託は、長期運用で個人資産を増やす中核的な金融商品と位置付けられてきた。政府も公的年金を補完するため、個人による資産形成を重視し、減税を通じて投信購入を促してきたが、実は個人向け販売は足踏みが続いていた。最近の調査では投信を購入していた顧客の半数近くが損失を抱えていることも分かった。官民とも個人の資産形成を促す投資戦略の練り直しを迫られそうだ。
大幅に修正されたのは、日銀が四半期ごとに金融機関や家計などが持つ資産や負債の推移を調べる資金循環統計だ。「日本の個人金融資産は1850兆円」などと使われる基礎データでもある。日銀が今年1~3月期の数値を調べたところ、家計の投信保有額を過大に計上していたことが明らかになった。
日銀が数値を改定した結果、昨年末時点の家計の投信保有残高は、それまでの109兆1000億円から76兆4000億円へと約33兆円も下方修正された。ゆうちょ銀行の保有分を家計分と誤って集計していたというが、ここまで大幅に修正されると統計の信頼性すら揺らぎかねない。
■
とくに問題なのが最近の推移である。改訂前の統計では家計の投信保有額は右肩上がりで着実に増えていた。だが、改定された家計の保有額をみると14年末にピークを付けた後、実際には減少に転じていたのだ。これに伴って個人金融資産額も約25兆円も減った。家計の投信保有は右肩上がりで増えていると思っていたが、その前提が狂ったのだから金融関係者は大きな衝撃を受けた。
金融業界はここ数年、政府が創設した投資減税を受けて確定拠出年金や少額投資非課税制度(NISA)などの商品を相次いで投入し、個人向け販売に積極的に取り組んできた。今回の事態は個人の投資機運に水を差すのは必至だ。
今回の下方修正で打撃を受けるのは金融業界だけではない。人生100年時代を迎え、政府も個人が自力で金融資産を増やす重要性を訴えている最中だった。そこで誤集計が判明したため、個人投資の促進を唱えるアベノミクスにも影を落としかねない事態といえる。
金融庁の調査によると、投信を保有していた顧客の半数近くが損失を抱えていた実態も判明した。これは大手銀行や地方銀行29行を対象に投信を購入した価格を調べたところ、今年3月末時点で46%の顧客が損失を出していたという。今年2月に金融市場が大きく揺れ、株価の下落が響いたようだ。
■
この調査では、投信を保有する期間が長いほど、顧客の利益が上がっていたことも分かった。だが、銀行は自らの手数料稼ぎのため、顧客に短期売買を繰り返させる可能性も指摘されている。同庁は顧客の運用成績を金融機関が開示する必要性も強調しており、顧客本意の営業姿勢が改めて問われている。
それでも投資の重要性に変わりはない。それは個人や企業でも同じだ。少子高齢化で財政事情は厳しさを増しており、個人が独自に老後資産を形成する取り組みは避けて通れない。企業も投資を怠れば、自らの成長を阻害することになる。内部留保だけを増やし続けても明るい展望は開けない。リスクを管理しながら投資を続けるのは先進国の責務でもある。
日本の個人金融資産で現預金が占める比率は、いまだ過半数を占める高い水準にある。マイナス金利でほとんど金利が付かない状態でも大きな変化はみられない。そうした過度な銀行依存は健全な姿とはいえない。投資マインドの育成は国を挙げて取り組む課題だ。それだけに日銀の失態は深刻に受け止めなければならない。改めて猛省を求めたい。
関連記事