【専欄】伝統的な考えが捨てきれず…やはり不人気、中国の“住宅年金”
その昔、友人同士集まれば、恋バナ(話)を始め、海外旅行先やファッション、グルメに花を咲かせたものだ。しかし今は一転、親の介護、自分たちの老後などで、軽く2時間は過ぎる。(ノンフィクション作家・青樹明子)
それは中国も同じで、「老後」は近年特にホットな話題となっているようだ。
無理もない。中国の高齢化は、世界に例を見ない速さで進み、北京では60歳以上の人口が毎日450人増えていて、中国全土では2050年、60歳以上が約5億人という驚異的な数字もあるようだ。
しかしこの時代、「老いる」とはそもそも苦労である。子供夫婦と同居し、孫の面倒をみながら平穏に年金暮らしをするという中国人のモデルケースが崩れ始めている。年金額は異常なほどの物価高騰に追いつかず、子供たちは都会に働きに出たまま帰らない。結果、貧しい暮らしの独居老人が大幅に増えた。
そんな中、13年に国が鳴り物入りで始めたのが「以房養老保険」である。自宅を担保にして、個人年金を受け取るというもので、子供が離れて住んでいたり、子供がいなかったりする高齢者向けに売り出された、新時代の保険と言っていい。
最大の利点は、これまで通り自宅に住み続けながら、現金収入が増えることである。北京市中心部の家だったら、月に9000元(約14万7000円)ほど年金として受け取れるケースもあり、これが終身続く。しかし死亡後、抵当に入れた家は保険会社などが処分する。
先ごろ放送された中国国営中央テレビの報道番組によれば、賛同派の大多数は、現金収入が2~3倍に増えることを利点にあげている。
「子供の金銭的な負担を減らすことができる」「自分には古い家が一軒あるだけ。お金が欲しい」「生きているうちに世界一周旅行をしてみたい。旅行資金のためにも、この制度を使いたい」などである。中には、「家を複数持っているので、その中の一つを、この制度で使いたい」という市民もいる。
しかしながら、番組で実施した調査によると、71%の人がこの保険は「絶対に嫌」と答えている。理由として「一生涯の苦労に比べ、採算が合わない」というのが圧倒的多数だった。
番組では、不人気の根底にあるのは「中国式老後」だとする。「家は子供や孫に残したい。そのためには自分が貧乏でもいい」という、伝統的な考えが捨てきれないのである。
社会主義と資本主義が共存する現代中国では、人々の頭の中も、新旧の概念がぶつかり合っている。人類史上まれにみる高齢化社会において、思想の改革開放は、容易ではない。
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