迷う訪日客 災害時対応に難 情報伝達阻む「言葉の壁」 観光立国へ課題

 
国際線の運航が再開され外国人観光客らで混雑した新千歳空港=8日

 台風21号や北海道の地震による訪日観光への影響が懸念されている。台風21号の高潮による浸水と連絡橋へのタンカー衝突で関西空港が一時孤立してから1週間となった11日、国内線と国際線のそれぞれ一部が運航再開している第2ターミナルに外国人の姿はまだまばら。格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションの広報担当者は「台風被害の印象が強く残っているのか、インバウンド(訪日外国人客)の出足が鈍く、搭乗率が低い。すぐ元通りとはいかないだろう」と話す。一方、激しい揺れと大規模停電に見舞われた北海道の地震では、外国人観光客への対応が大きな課題として浮上した。

 日本語と英語だけ

 「ホテルのスタッフは日本語でしか対応してくれなかった」(韓国人男性)。「駅などの案内の多くは日本語と英語だけ。中国語の表記も欲しかった」(中国人男性)

 年間280万人近い訪日客が訪れる北海道。停電の影響で交通機能がまひし、6日以降、札幌市中心部の公園や空港には行き場を失った外国人の姿が多く見られた。目立ったのは、言葉が通じず必要な情報を得られないことへの不安やいらだちだった。

 札幌市は6日午後から観光客用の避難所を設け、一部には英語などを話せる職員を置いた。北海道は日中に英語、中国語、韓国語で対応する電話相談窓口を開設。ただ担当者からは「避難所での対応に追われ、多言語での情報発信まではできなかった」(札幌市)などの反省も聞かれる。

 訪日客は昨年、過去最多の2869万人。今年は3000万人超えが確実で、政府は20年に年間4000万人を目指す。一方、地震や台風の被害が頻発する「災害大国」だけに、緊急時の訪日客への対応は大きな課題となる。

 観光庁は、災害発生時の訪日客への初動対応を示したガイドラインを策定。観光・宿泊施設などに対し、日本語が理解できなかったり、災害の経験がなかったりする外国人がパニックを起こさないよう迅速で丁寧な対応を取るよう求めている。

 同庁が監修した情報提供アプリ「Safety tips」は、ダウンロードすればスマートフォンに英語や中国語などで緊急地震速報や津波警報が届く仕組み。観光案内所や各国の大使館を通じ利用を呼び掛けている。

 京都では会話仲介

 国内の主要観光地はどんな「備え」をしているのか。京都市は、宿泊施設と訪日客の間で言葉が通じない時に、スタッフが通訳して会話を仲介する24時間態勢のコールセンターを設置。5言語に対応できるという。

 訪日客が避難情報などを確認できるウェブサイトも開設。市による防災訓練には地元住民や宿泊施設関係者が参加し、交通機関が停止した事態を想定し、寺社の敷地内などに避難させる手順を確認している。

 毎年多くの台風が近づく沖縄県では国際交流・人材育成財団が「サポーター」を養成しており、現在講習を受けた市民ら135人が登録。避難所を回って外国人の被災情報の収集や相談に当たるという。

 財団の根来全功国際交流課長は「言葉が通じなくても、身ぶりを交えて分かりやすく必要な行動を伝えるのが重要」と強調。それでも「大地震や大規模停電があればどうなるか。養成人数はまだまだ足りない」と話す。

 札幌市の担当者は「最悪を想定し、旅行会社や宿泊施設と連携して情報発信できる関係づくりを進めたい」。名古屋外国語大の吉富志津代教授(多文化共生)も「災害発生直後は、行政と宿泊施設などが一緒になって訪日客の所在を把握することが大事」とした上で「誰も排除することなく、言葉が分からない人とのつながりを充実させる、という意識が求められる」と強調する。

 2020年東京五輪・パラリンピックに向け訪日客の増加を見込む中、「言葉の壁」を越え、災害時のスムーズな情報提供をどう実現するか。やるべきことは多い。