米中貿易戦争で世界経済悪化、「出口戦略」困難に 景気失速で消費増税延期も

 
中国旗と米国旗=16日、北京(AP)

 米国は、24日に発動した2000億ドル(約22兆円)相当の対中追加関税に中国が報復したことから、さらに2670億ドル相当の輸入品に25%の関税をかける方針だ。ただ、「米中貿易戦争」の深刻化が、世界経済の悪化を招きかねない。日本政府は来年10月に消費税率10%への引き上げを予定通り行う方針だが、悪影響が日本経済に及べば増税延期が選択肢に上る可能性がある。

 「今回は間違いなく(増税を)やれる状況になっている」。8月27日、麻生太郎財務相はこう明言した。

 背景にあるのは、アベノミクスの効果で国内経済が着実に改善している事実だ。7月の有効求人倍率は1.63倍と1974年1月以来の高水準。賃上げも進み、2019年1月には景気拡大局面が74カ月間と戦後最長を更新する見通しだ。

 もっとも政府は、米中貿易摩擦を世界経済のリスクとみている。2大消費地である米中の景気が後退すれば、両国への輸出が停滞し、設備投資や消費の低迷にも連鎖するからだ。

 今年6月の党首討論で、安倍晋三首相は「リーマン・ショック級の出来事がない限り、予定通り(増税を)行う」と述べた。

 世界銀行によると、世界の国内総生産(GDP)成長率は、07年の4.2%から、リーマン・ショックの起きた08年に1.8%、09年にマイナス1.7%と大きく落ち込んだ。

 ここまで成長率が落ちるのは「かなり特別」(市場関係者)だが、貿易摩擦の影響で景気の腰折れ懸念が強まれば、安倍首相も増税の可否を再考せざるをえないとの見方は強い。

 一方、日銀も貿易摩擦の影響を注視する。黒田東彦総裁は今月19日の記者会見で「当事国だけでなく供給網を通じて世界経済全体に影響が及ぶ可能性がある」と述べ、警戒感を隠さなかった。悪影響が企業の設備投資や家計の消費行動にまで拡大すれば、大規模金融緩和を手じまいする「出口戦略」どころではなくなる。

 日銀は7月、緩和長期化による市場機能の低下といった副作用を軽減するため、長期金利の変動幅拡大など政策修正を行った。物価の伸び悩みを踏まえ、2%の物価上昇目標実現まで時間を稼ぐ狙いがある。

 ただ、目標達成前に景気減速が始まれば緩和策の縮小は難しい。政策修正に反対した日銀の片岡剛士審議委員は、通商問題などによる景気の下振れリスクを踏まえ、「必要なのはむしろ追加緩和だ」と主張する。貿易摩擦の激化は、日銀内の亀裂も誘発しそうだ。(山口暢彦、田辺裕晶)