日米首脳会談、自動車輸入制限回避で次善の策

 
日米首脳の通商問題に関する主な発言

 安倍晋三首相が26日、トランプ米大統領と農産物などの関税引き下げに向けた「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉開始で合意したのは、米国が検討していた自動車輸入制限の回避に向けた“次善の策”といえる。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)以上の譲歩をしないとする日本側の主張は通せたが、2国間交渉に持ち込まれたことで、保護主義に対抗するための多国間の自由貿易体制には逆風となりかねない。

 「農産品(の関税引き下げ)については、過去の経済連携協定で約束した内容が最大限だ」。首脳会談後の内外記者会見で、安倍首相はこう強調した。

 関税引き下げがTPPの水準を超えなければ、国内の農業にとって、事実上、米国がTPPに復帰した状況と同じになる。牛肉であれば米国産の関税率は38.5%だが、TPPで合意している9%まで引き下げる余地がある。

 日本にとってベストのシナリオは米国のTPP復帰だ。知的財産権保護などで高水準のルールがあり、不公正な貿易を続ける中国への牽制(けんせい)にもなるからだ。

 それでもTAGでは関税引き下げを「実害がない」(経済官庁幹部)範囲に抑える一方、自動車輸入制限を回避できた。また、2国間交渉を求めるトランプ大統領の顔も立てた形だ。

 ただ、米国の保護主義的な姿勢に対抗するため、日本が重視する多国間の自由貿易に対する関心は高まっていた。実際、米国を除く11カ国のTPP11は来年初めの発効を目指し、参加各国で国内手続きが進む。さらに、タイなど複数の国が新加盟に前向きだ。しかし、TPP11を主導する日本が米国との2国間交渉に乗り出すことで、「発効に向けた機運がしぼむ」(政府関係者)恐れがある。

 安倍首相は会見で、「(自由貿易体制の)時計の針を逆戻りさせてはならない」と述べ、米国をTPPという多国間の枠組みに引き戻したいとの思いをにじませた。

 だが、経済規模で世界1位の米国と3位の日本がTAGを締結し、農産品などの関税がTPP並みに引き下げられれば、米国にとってはTPP復帰の意義が薄れる。トランプ大統領は25日、ニューヨークの国連総会で演説し、「グローバリズムの思想を拒絶し、愛国主義に基づき行動する」と表明した。多国間の自由貿易体制は試練にさらされている。(大柳聡庸)