【高論卓説】変わりつつある中国人の消費行動 見栄えの良さより機能・品質で選択
2000年代に入ってから中国では経済成長とそれに伴う収入の増加で、個人消費が年平均15%前後で順調に伸びている。世界一のブランド品消費大国として中国人観光客の「爆買い」は度々話題になり、国民の購買力向上が注目されている。
ここ4~5年、特に都市部の中国人の消費行動を表す重要なワードは「消費昇級」だった。食品や生活用品など日常生活に不可欠なものから消費意欲が高まり、そこから娯楽関係や国内・海外旅行といった、より高品質な商品やサービスを求めるようになっている。
実際、家計支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は低下し続けており、地域間のばらつきはあるものの、17年には全国で29.3%と初めて30%以下の水準に突入した。消費者ニーズはかつての物不足の時代から一変し、高度化や多様化、個性化が特徴になった。
従来のインフラ投資と輸出依存の経済構造から、消費拡大で内需主導にシフトを図る中国経済の発展方向と一致する消費昇級には期待が寄せられる。
しかし、今年春から夏にかけて、この消費昇級と相反する「消費降級」という言葉が目立つようになった。その理由として、15年に上海で設立された「●多多」(ピンドゥオドゥオ)を挙げる人が少なくない。同社は低価格商品の提供で、低所得層を対象に事業を急拡大させている。現在は3億人ものユーザーを抱え、今年7月には米ナスダック市場に上場を果たした。同社のサービスで偽物の取り扱いが横行していることに批判が殺到したにもかかわらず、今も多くのユーザーに利用されていることが「消費降級にほかならない」というのだ。
ここでは●多多の品質管理体制について論評しないが、この3億人の消費行動だけで消費降級を説明することはできないと考える。中国では、ミドルクラスが台頭している一方で、依然として低所得層が大勢いるということにほかならないだろう。
一方、筆者は8月下旬に故郷の遼寧省瀋陽に2年ぶりに帰ったが、そこでは皆が口をそろえて「しばらくはインフレで厳しい生活が続くので、消費よりお金をためておいた方が良い」と言っていた。
さて、中国人の消費意欲は低下し、財布のひもは固くなるのだろうか。18年上半期の小売り総額の伸びの鈍さからも、確かに消費は冷え込んでいるように見える。住宅価格高騰や所得の伸び悩みに加え、最近顕著な大都市における家賃上昇、災害のような一時的要因による野菜や生活用品の高騰、さらに米中の貿易摩擦がもたらす物価上昇の可能性が消費を圧迫しているのかもしれない。
だが、消費者物価指数(CPI)は月ごとに変動があるものの、通年では安定しており、国内外への旅行者数の増加傾向も変わらない。
そこで注目したいのが消費者ニーズの変化だ。12年に日本で発売された三浦展氏の『第四の消費』(朝日新書)は、中国でもヒットし、三浦氏の主張である私有主義からシェア志向、ブランド志向からシンプル志向への変化に共感する中国人は増えている。消費昇級が象徴する中国人の消費ニーズの多様化と個性化の傾向は続くと思われるが、従来のような見栄えの良いものより、機能や品質の良いモノやサービスを選ぶという消費行動に変わりつつあるのかもしれない。
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【プロフィル】趙★琳(チョウ・イーリン)
富士通総研経済研究所上級研究員。2008年東工大院社会理工学研究科修了、博士(学術)。早大商学学術院総合研究所を経て、12年から現職。麗澤大オープンカレッジ講師なども兼任。39歳。中国遼寧省出身。
●=併のにんべんをてへんに
★=偉のにんべんを王に
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