【ジャカルタレター】テロリストの巣窟に見る紛争の傷跡

 
アジア大会の前に、インドネシア警察と軍の特殊部隊が行った反テロ訓練=7月25日、首都ジャカルタ(AP)

 さまざまなトラブルはあったものの、テロなどの混乱もなく、アジア大会は9月2日に無事に閉会式を終えた。アジア大会に先立ち、今年1月から8月の開催までに全国で集中的な犯罪取り締まりが行われ、70人以上が正当な司法手続きなしに警察官によって取り締まり現場で射殺される「超法規的殺人」が実行された。

強権的な対応

 なかでも、対テロ特殊部隊「デンスス88」によって、2016年1月にジャカルタで起きた爆破テロや今年5月のスラバヤでのテロ事件に関与したとされる「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」への取り締まりが強化された。

 デンスス88の強権的な対応のみが目立つテロ対策が本当に効果的なのか、テロリストの巣窟といわれ、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の東南アジアの拠点といわれていたポソを10年ぶりに訪ね改めて考えさせられた。

 中部スラウェシ州ポソ県は、北側が海に面し、南側に山々が連なり、ポソ湖というインドネシアで2番目に大きな湖や美しい滝が存在するなど、風光明媚(めいび)な所である。ポソは、1998年のスハルト政権崩壊後の民主化移行期にイスラム教徒(ムスリム)とキリスト教徒に分かれて紛争が起きた地域であり、イスラム過激派組織「ジュマ・イスラミーヤ」(JI)が紛争に介入し、拠点とした地域でもある。JIの戦闘員の多くが逮捕され、ポソの治安が回復してきた2008年から09年にかけて現地調査をしていたことがあったため、旧友に連絡を取って、さまざまな人から話を聞くことができた。

 紛争中、JIに加わり5年の刑期を経て出所した元戦闘員の話によると、ポソにはデンスス88による過激な取り締まりに恨みを持つ人物が相当数集まっているとのことだ。ポソの南側の深い森は、紛争中にJIの軍事訓練の場となっていたように、地形的に取り締まりが難しい。

 加えて、元戦闘員が側面的にサポートしていることも、現在に至るまでイスラム過激派が集まっている要因の一つだという。

募る不安不満

 深刻なのは、紛争が始まってから20年になる現在も、ムスリムとキリスト教徒の双方で紛争に加担した人々が心の傷をもったまま何のサポートもなく、多くの不安や不満を抱えたまま生活を送っていることだ。

 また、住民の意向とは違った開発が進んでいることも、人々の不満が募る原因ではないかと思った。

 スラウェシ島の「王様」ともよばれている副大統領ユスフ・カラ氏率いるKallaグループは、中国と組み、設計から発電までを請け負い、大規模な水力発電所をポソに建設し、遠く離れた大都市マカッサルまで電気を届けている。この水力発電所建設により、地元の人々はポソ湖の名物であった巨大うなぎの激減といった環境問題の影響を感じているだけではなく、地元ポソには何の恩恵ももたらさないと不満を持ちながらも、巨大な力を前に無力感でいっぱいであるという。

 テロ対策を考える際、紛争という古傷が完全に癒えていないことや、地域復興が置き去りにされてきたという事実も忘れてはならない。(笹川平和財団 堀場明子)

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