【中国を読む】インフラ投資の増勢、大幅に減速 中国景気の押し下げ要因に

 

 2018年に入ってから、中国ではインフラ投資の増勢が大幅に減速した。米中貿易摩擦も中国景気の押し下げ要因となっているものの、足元ではインフラ投資の減速によるマイナス影響の方が大きい。鉄道や道路、水利・環境・公共設備など幅広い分野で投資がスローダウンした。(日本総合研究所・関辰一)

 債務圧縮と対米摩擦

 この背景として、まずデレバレッジ(債務圧縮)政策が指摘できる。近年、中国では長期にわたる金融緩和や政府による債務保証などの理由により、過剰な債務が蓄積した。さらに、潜在的な不良債権が膨張し、金融危機が発生するリスクも高まっている。

 こうした中、2017年12月の中央経済工作会議では、今後3年間の最重要課題として金融リスクの抑制を上げ、デレバレッジ政策に本腰を入れ始めた。

 金融政策は、短期金利の高め誘導などで実質的に引き締め気味の運営へシフトした。銀行に対しては、簿外取引(いわゆるシャドーバンキング)の縮小を指導するなど金融規制・監督を強化した。金融機関は貸出額および簿外取引の金額を毎月報告し、金融監督当局が定めたそれぞれの金額の上限を守るよう求められた。

 この結果、社会融資総量のうち人民元貸し出し以外の資金調達(委託融資など)の伸びは大幅に鈍化した。地方融資平台(地方政府が資金調達するために設立した特別目的会社)は資金繰り難に直面し、多くのインフラ投資プロジェクトが見直しを余儀なくされた。

 加えて、政府は地方でのPPP(官民パートナーシップ)乱用などによるインフラ投資を抑制した。17年11月、財政省は、地方政府にPPP案件を徹底的に整理するよう指示した。

 18年4月時点で、1.8兆元(約30兆円)のPPP案件を取りやめ、3.1兆元の案件を見直した。合計4.9兆元という金額は、PPP案件全体の36%に上る。

 このほか、インフラ投資で景気を下支えする必要がないほど、民間固定資産投資が堅調だったことも大きな要因である。情報化や製造工程自動化など「中国製造2025」に誘発された設備投資が景気を下支えしていた。

 もっとも、こうしたデレバレッジ政策は効きすぎた。一部の地方政府は運営資金さえままならない状況に陥った。シャドーバンキングから資金調達せざるを得ない中小零細企業も資金繰り難に直面した。

 さらに、米中貿易摩擦が激化したため、中国経済の先行き不透明感が強まっている。米中貿易摩擦の激化は、米国向け輸出のみならず、民間固定資産投資にも悪影響を与える。米国が中国ハイテク製造業をターゲットに通商面で圧力を強めるなか、今後「中国製造2025」に誘発された設備投資ブームは一旦終息に向かうとみられる。

 景気下支えへ棚上げ

 こうした状況下、政府主導のインフラ投資で景気を下支えする必要性が高まったといえよう。習近平国家主席は7月31日の政治局会議で「6つの安定」を求めた。雇用、金融、貿易、対中投資、固定資産投資、成長期待という6つの分野における安定だ。習政権はさまざまな分野で権力を集中してきたとはいえ、安定的な経済成長を維持できなければ、政権運営が行き詰まりかねない。

 そこで、政府はデレバレッジ政策を一旦棚上げすることにした。真っ先に着手したのが金融緩和だ。中国人民銀行は、4月と6月に続き10月も預金準備率を引き下げたほか、短期金利を低めへ誘導し始めた。

 7月の国務院常務会議では、1.35兆元の地方債の発行を承認したほか、地方政府に対して余剰資金の活用、金融機関に対して地方融資平台の合理的な資金需要に応えるよう要求した。さらに、金融監督当局は金融機関の貸出額および簿外取引の金額の上限を引き上げた。

 今後、これらの施策の効果が顕在化することで、社会融資総量のうち人民元貸し出し以外の資金調達の伸びが底入れし、インフラ投資も緩やかに持ち直すとみられる。

【プロフィル】関辰一

 せき・しんいち 2006年早大大学院経済学研究科修士課程修了。08年日本総合研究所入社、15年から調査部副主任研究員。拓殖大学博士(国際開発)。専門分野は中国経済。著書に「中国経済成長の罠」。37歳。中国上海出身。