【正論】内部留保を「CSR」に活用せよ 日本財団会長・笹川陽平
財務省が先に公表した法人企業統計によると、2017年度の日本企業の内部留保は446兆円と6年連続で過去最高を更新し、企業が利益を抱え込む構造が依然続いている。
欧米各国に比べ労働分配率(賃上げ)や株主への配当率、国内投資も低く、個人消費が低調で「経済の好循環」が実現しない一因ともみられ、企業に賃上げや設備投資を促す方策として「内部留保課税」を検討する動きも出ている。
≪日本経済の活性化を奪う≫
しかし、内部留保は課税後に積み立てた利益剰余金であり、「二重課税に当たる」とする反対論も根強い。そんな中、ハンセン病制圧活動で毎年、訪れるインドでは、企業にCSR(企業の社会的責任)活動を義務付ける世界でも珍しい法律が施行されている。内部留保を有効活用する妙案として、わが国でも検討に値すると考える。
内部留保は途上国経済の減速を懸念して欧米各国でも増加傾向にある。しかし、わが国の場合は企業投資も国内より海外に偏る傾向にあり、賃金も上昇しているものの企業が生み出した付加価値に占める割合を示す労働分配率でみると、17年度は66・2%と43年前の水準に逆戻りしている。
企業の国際競争力維持に向けた法人税率の引き下げも加わり内部留保が一層膨張し、現預金に限っても国内総生産(GDP)の約40%にも相当する222兆円に上る。先進7カ国(G7)でも例を見ない数字で、企業が過剰な現預金を抱える現状が日本経済の活性化を奪っているとの指摘も多い。
経済界からは「内部留保は経営に自由度を与える源泉」(16年、日本商工会議所・三村明夫会頭)といった反論も出ているが、「そんなにためて何に使うのか」「企業収益が上がるのは良いことだが、設備投資や賃金が上がらないと消費につながらない」(麻生太郎副総理兼財務相)といったいらだちも聞こえる。
≪インドは利益の2%義務付け≫
これに対しインドでは、13年に改正された新会社法で、「純資産が50億ルピー以上」「総売上高が100億ルピー以上」「純利益が5000万ルピー以上」の3要件のうち1つ以上を満たす会社に上場、非上場を問わず過去3年の平均純利益の2%以上をCSR活動に費やすよう義務付けている。
「飢餓および貧困の根絶」「子供の死亡率減少」などCSR活動の具体的内容も定められ、現地日系企業も含め16年時点で約1500社が計約830億ルピーを医療や衛生など幅広い分野に費やしている。為替レートで換算すると、5000万ルピーは7700万円、830億ルピーは1278億円となるが、インド経済の躍進で対象企業は急速に広がる気配だ。
わが国が経済の好循環を達成するためにも膨大な内部留保はまず賃上げや配当、投資に充てられるべきであろう。その上でインドと同じ2%をCSR活動に回すことができれば、現預金に絞っても5兆円近い額になり、山積する社会課題の解決に大きく貢献できる。国の借金が1000兆円を超すわが国は今後の公的財政投資に限界があり、なおさら効果は大きい。
≪求められる「社格、社徳」≫
インドの企業がCSR活動に前向きな背景には「自分の資産などを貧しい人々やお寺などに寄付すれば幸福になれる」とするヒンズー教の教えがあり、タタ財閥などでは新会社法の制定以前から慈善活動や社会貢献活動に熱心に取り組んできた伝統があるという。
米国にも「Give Five」の掛け声の下、企業が税引き前利益の5%を公益的な寄付に拠出する取り組みがあり、筆者は1989年、新聞投稿で米国の取り組みを紹介、企業に積極的な公益的寄付を呼び掛けたことがある。
これに対し経団連は翌年、「1%(ワンパーセント)クラブ」を設立。現在、法人226社、個人850人が会員となり、それぞれ経常利益や可処分所得の1%以上を社会貢献活動に拠出している。
現時点では十分、期待に応えているとは言い難いが、わが国には江戸初期から続く近江商人の「三方良し」(売り手良し、買い手良し、世間良し)に代表される社会貢献に熱心な企業風土がある。CSR元年と呼ばれた2003年から15年と欧米に比べ歴史は浅いが株主利益最優先の欧米系企業と違い、従業員や顧客、地域社会まで幅広いステークホルダー(利害関係者)を大切にする伝統もある。
国の財政が逼迫(ひっぱく)する中、企業には税金を納めるだけでなく深刻化する少子高齢化や地方創生、障害者雇用、里親制度の拡充など社会課題解決への積極的な取り組みが求められている。人に人格、人徳があるように企業にも一層の「社格」や「社徳」が求められる時代となった。
内部留保をどう使うか、最終的な判断は企業の決断に委ねられるが、CSR活動への積極的な取り組みは間違いなく企業に対する国民のイメージを好転させ、企業・経済界の発展、ひいては景気の上昇にもつながる。(ささかわ ようへい)
関連記事