デジタル課税、日本に暗雲 英導入表明で国際協調機運低下も
英国は大手IT企業のデジタルサービスに課税する方針を決めた。IT企業への課税をめぐっては、日本を中心に20カ国・地域(G20)などで国際協調に基づくルールづくりが進むが、各国の対立は深く議論は停滞。英国はしびれを切らし見切り発車した格好だが、これを機に同様の独自課税が各国で急速に広がる可能性も高まっており、日本が目指す協調路線にも暗雲が漂う。
巨大IT企業が対象
「デジタルプラットフォーム企業が英国で価値を生みながら税金を払わないのは、明らかに不公平だ」。ハモンド英財務相は10月29日の予算演説でこう述べ、大手IT企業への課税に向け強い意欲を示した。
英国は2020年4月からこの新税の導入を予定しており、IT企業が英国内のサービスで得た売上高に2%を課税する。課税対象は世界での年間売上高が5億ポンド(約730億円)以上で、「GAFA(ガーファ)」と呼ばれる米国の巨大IT企業グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コムを狙い撃ちしたとみられる。
ITの巨大企業を対象にした新課税ルールは、以前から国際的な課題となっていた。従来の国際的な法人課税ルールでは、国内に支店や工場など恒久的施設(PE)を持たない企業には原則、法人税を課税できないからだ。国境を越えてインターネットで売買される電子書籍などの利益には法人税を掛けられない。
GAFAなどにとってPEに該当するのは、サーバーなどの情報機器を設置する施設だ。各社はサーバーをアイルランドなどの法人税の軽い国に置き、消費国での売り上げを軽課税国に集めて課税所得を計上する手法をとることで莫大(ばくだい)な利益をあげていたとされる。
G20や経済協力開発機構(OECD)はこの状況を野放図に容認していたわけではない。13年にはOECD租税委員会に多国籍企業の課税逃れを防ぐための「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」を設立。日本が議長国となり中国やインドなど新興国を含め110以上の国・地域を集め議論を進めた。
だが、議論が難航し、15年に公表したBEPSの最終報告書では具体的な対応策をまとめられなかった。現在も議論を継続し、20年までにルール確立を目指すとしているが、巨大IT企業を抱える米国や中国の反発もあり、対立が解消されるめどは立たない。
こうした状況に業を煮やしたのが欧州連合(EU)だ。欧州では米IT企業が利益をむさぼる状況にデモが頻発。欧州委員会は今年3月に、中長期的な法人課税ルール改革が実現するまでの暫定措置として「デジタル税」の導入を提案した。世界売上高7.5億ユーロ(約970億円)以上、EU内でのデジタル活動売上高5000万ユーロ以上のIT企業を対象に、消費地となったEU加盟国ごとに売上高の3%分を課税する内容だ。
ただ、EUでは税制の変更に加盟28カ国の全会一致による承認が必要となる。低税率を武器に企業誘致してきたアイルランドなどは難色を示しており、導入時期は見通せない。EU離脱を控える英国は、導入に二の足を踏むEUを横目に同様の施策を先取りした。
売上高方式には慎重
デジタル課税はインドなどの新興国でも導入が進む。日本でも先月の政府税制調査会で有識者から「日本も何らかの独自措置が必要だ」との声が上がった。
ただ、日本としてはデジタル税のように売上高への課税方式には慎重だ。その理由の一つに、売上税は流通の各段階で二重三重に税がかかり、税金が累積する問題が指摘される。財務省幹部は「税引き後利益を減らさないよう消費者や取引業者に税負担が転嫁される可能性もあり、サービスの不当な値上げにつながりかねない」と懸念する。
日本は新たな徴税システムを国際協調という形で実現することにこだわるが、各国で英国のような課税導入が進めば、日本はみすみす徴税の機会を失いかねず、公正な国際ルール確立の機運低下も免れない。来年のG20首脳会議の議長国を務める日本。対立する各国の意見をとりまとめられるか調整力が問われる。(西村利也)
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