【中国を読む】桁外れのセールも消費市場に陰り…中国の消費市場、今後の行方は?

 

 中国の個人消費市場をめぐっては近年の電子商取引(EC)の爆発的な普及も追い風となり、高い伸びが続くなど注目を集めている。最近では日本をはじめとする海外製品を取り扱う「越境EC」への日本企業の参入も相次いでおり、消費市場としての中国の存在感はいやが上にも高まっている。ただ、足元ではその勢いに陰りが出るなど変調の兆しもうかがえる。ここでは、今後の中国消費市場がどのようになり得るかを考える。(第一生命経済研究所・西浜徹)

 桁外れのセール

 ここ数年、11月11日の「独身の日」に併せて行われるECサイトのセールでは、1日の売上高が桁外れの規模となるなど注目を集めている。

 このセールは、2009年に大手ECサイトのアリババが始めたが、その後は他のECサイトも追随しており、最近ではこの時期に中国の個人消費が盛り上がる一大イベントとなっている。ちなみに今年、「独身の日」1日におけるアリババの売上高は2135億元(約3兆5000億円)と過去最高を更新した。

 ただ、今年の売上高の伸びは前年比26%と高い伸びとなったものの、前年の同39%を大きく下回るなど、勢いに陰りが出る様子もうかがえる。

 過去数年、アリババの「独身の日」売上高の伸びをみると、EC全体の伸びを上回る展開が続いてきたものの、今年は10月時点の年初来前年比の伸びが25.5%であったことを勘案すると、EC全体の動きとほぼ同じペースにとどまったと捉えられる。この背景には、ECサイト間の競争激化が影響しているとみられる一方、中国の個人消費市場を取り巻く環境の「異変」も少なからず影響している可能性がある。特に米中貿易摩擦の激化が影を落としていると考えられる。

 米中貿易摩擦は9月末に米トランプ政権が「第3弾」の発効に踏み切り、中国も対抗措置を実施するなど抜き差しならない状況にあるが、足元の中国の輸出は依然高い伸びが続くなど、直接的に悪影響が表面化する事態には至っていない。

 その一方、中国国内の企業マインドは製造業、サービス業を問わず悪化しており、先行きの悪影響を懸念する傾向を強めている。また、中国金融市場では、米中貿易摩擦の激化による企業業績の悪化を不安視して、年明け以降株価が下落基調を強めるなど、投資家心理が急速に悪化する動きもみられる。

 株価下落と物価上昇

 中国の家計資産は、高い経済成長を追い風にここ数年急拡大しており、既に日本を上回る規模になる半面、その背後で家計債務も大幅に拡大してきた。

 こうした資産規模の急拡大をもたらした要因は、昨年以降の中国経済の持ち直しの動きと、それに呼応する形で株価が上昇基調を強めたことが影響している。ところが年明け以降における株価下落によって家計資産に対する「バランスシート調整圧力」が強まり、個人消費に対する下押し要因となっている。

 さらに米中貿易摩擦をめぐっては、中国政府が米国からの穀物輸入に対して制裁関税を課しており、中国国内では飼料用穀物価格の高止まりを招いている。足元では豚肉などをはじめとする畜産品価格が上昇しており、インフレ率の上昇につながっている。

 つまり、足元の中国の家計部門にとっては株価下落と物価上昇が「ダブルパンチ」となり、消費を圧迫している。

 こうしたことから、個人消費の動向を示す10月の小売売上高は前年同月比8.6%増と伸びが鈍化したほか、物価の影響を除いた実質ベースでは同5.6%増と統計開始以来となる低い伸びにとどまった。

 「独身の日」のセールを前に、買い控えの動きが広がった影響も考えられるが、中国の家計部門が節約志向を強めている現れと捉えられる。家計部門を取り巻く環境は、それだけ深刻な事態に直面しているとも考えられる。

 中国政府は景気下支えに動く姿勢を明らかにしており、今後はそうした効果発現が金融市場、特に株価にプラスの効果を与えることは期待できる。

 米中による制裁合戦は「一時休戦」しているが、先行きも予断を許さない状況が続いており、習近平政権が目指す内需主導型の経済成長モデルである「新常態(ニューノーマル)」への脱皮は困難が続きそうだ。

【プロフィル】西浜徹

 にしはま・とおる 一橋大経卒。2001年国際協力銀行入行。08年第一生命経済研究所入社、15年から経済調査部主席エコノミスト。新興国や資源国のマクロ経済・政治情勢分析を担当。41歳。福岡県出身。