大手スーパーが大学や企業とコラボ 世界初、オランダ「美味しい廃棄物」プロジェクト

 
「ピーパービール」は一本飲むごとに廃棄予定のジャガイモ2個を「救済」できる。仕方ない、飲もう(『美味しい廃棄物プロジェクト』公式HPより)

 ▼感謝祭前に「もったいない」を訴えた有名シェフ

 先月、アメリカが感謝祭(サンクスギビング・デイ)を数日後に控え浮き足立つなか、インターネット上で公開され爆発的に拡散した動画があった。食品廃棄問題に取り組むヴィーガンのシェフ、マックス・ラ・マンナ氏が、「毎年感謝祭に欠かせないターキー(七面鳥)は、実はその35%が食べ残され、廃棄されています」と語り始め、世界の食品ロスの現状、食品の製造に消費されるエネルギーや水資源、更には廃棄食品が生成するメタンガスなどの環境への影響を語ったのち、「『たかが食べ残し』と思わず、今年の感謝祭には一回り小さいターキーを買うか、料理の品目を減らしてください。一人一人の小さな行動がこの国の食品ロス問題に大きな変化をもたらすのです。それこそが『感謝』すべきことです」と訴えるものだ。

 同氏は「ゼロ・ウェイスト(食材を一切無駄にしない)料理」で絶大な支持を受けるイタリア系アメリカ人シェフである。

 ▼日本と世界の食品ロス

 感謝祭こそ祝わないものの、これから年末年始に向けてごちそう三昧のイベントが続く日本にとっても食品廃棄は他人事ではない。「クリスマスディナー」も「正月のおせち」も毎年一品残らず食べきる家庭など、いったいどれくらいあるだろうか? 「忘・新年会」で次々に出てくるコース料理など、いつもお酒と社交の三の次で放置されたりしていないだろうか?

 実際、国連の調査によると、現在世界の食料の3分の1が廃棄されているが、これは10億人以上が食べるに十分な量であり、経済的には約84兆円の損失を生んでいるという。世界で飢餓に苦しむ人口は約8億人と言われているので、実にその全員を生かしてなお余りある量の食料が廃棄され続けていることになる。食料ロスは、今後世界が循環型社会を構築していく上で避けて通れない課題として、各先進国が対策に乗り出している。

 ▼「世界初の廃棄食材から作られた食品コーナー」

 そんな中、オランダでは今年3月、首都アムステルダムで話題になった「世界初のプラスチックフリースーパー」と時期を前後して、オランダ2番手の大手スーパーチェーンJUMBO(ユンボ)がオランダ中央部に位置するワーゲニンゲンの支店で「世界初の廃棄(されるべき)食材から作られた食品コーナー」をテスト始動していた。

 スーパーの店頭に並べることができない曲がった野菜から作ったスープやペースト、傷もののリンゴから作ったアップルサイダー、廃棄されたパンや不揃いなじゃがいもから醸造したビール、オレンジの皮から作ったせっけんなど、「廃棄されてしまうことが決まっている食材」を使って製造した商品のみを並べたこのコーナー。概ね確立したブランド品よりも高価格にもかかわらず、初週には通常のオーガニック食品の倍にあたる700アイテムを売り上げた。

 ▼国家レベルのプロジェクト

 この企画は、同店の有名店長(当時)が地元ワーゲニンゲン大学でフードロス問題の研究をしている教授の講演を聞いたことをきっかけに、市や国内企業18社も巻き込んで立ち上げた「美味しい廃棄物プロジェクト」がベースとなっている。EUの掲げる「2030年までに食品ロスを現在の半分にする」という目標に向けたオランダ政府による「食品ロス撲滅のための連携プロジェクト」の一環だ。食品ロスを減らすためのすぐれた研究やアイデアを表彰するコンテストなども政府主導で行っている。フランスがスーパーマーケットが売れ残り食品を廃棄することを禁止する先進的な法律を施行し、スペインでは貧困者への食糧援助も兼ねた「連帯冷蔵庫」が街中に設置される一方、オランダはお家芸のイノベーションとビジネスでこの「食品ロス半減レース」に挑む格好だ。

 ▼主婦としての感想は「うまい」

 一介の主婦の立場で正直思うのは「加工品とはうまいことを考えたな」である。カビたパンやオレンジの皮などはもちろん素人には利用のしようがないし、安くて環境にやさしい「規格外」の野菜の唯一の欠点は処理が面倒なことだ。小さな玉ねぎは一個一個剥いていると気が遠くなるし、曲がったイモはへこんだ部分が洗いにくい。それから強いて言えば店頭でおいしそうに見えない。それらの問題も、すでに加工してあればすべて解決だ。また、年間600万トン以上の食品が廃棄されていると言われる日本で、フードシェアリングなど食品ロスへの対策が打ち出されるたびに問題になる「衛生問題」も、食品会社で加工してある時点でクリアだろう。

 ▼食品コーナー、その後

 今回記事を書くにあたって店舗に問い合わせてみたところ、「美味しい廃棄物プロジェクト」を主導した3月当時の店長は、「食とショッピングが素晴らしい化学反応を起こすような」自身のスーパーマーケット事業に従事するためにユンボを辞職していた。代わって質問に答えてくれた現在の副店長によると、「廃棄食材から作られた食品コーナー」の売上はその後も上々で、半年間のテスト設置の予定を急遽変更して常設が決まったとのことだった。「少し割高ですが、それでもお客さんが買ってくれてよかったです。その支払われた代金が、また食品会社が廃棄食材を丁寧に加工しておいしいものを作る資金になるのですから」と。

 食品会社が、自宅のキッチンに代わって廃棄予定の食材をレスキューし、食べやすい形に加工してくれる手間に少し余分の代金を払うというコンセプトの「美味しい廃棄物コーナー」。こんなタイプの「食べて応援」も広がってほしいと思う。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R)

 《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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