【マネジメント新時代】2019年は新モビリティー創造の年

 
新交通システム「ループ」のテスト用地下トンネルで行われたデモンストレーション。テスラ車が台車に乗って移動する様子が公開された=昨年12月18日、米カリフォルニア州(AP)

 □日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎

 振り返ると、2018年はモビリティー関連に限っても多くのものが流行した。自動運転車は世界各地で実証試験が実施され、中国・北京の副都心「雄安新区」では自動運転車だけを走行させると公表するなど話題となった。また18年後半からは、「モビリティーのサービス化(MaaS)」がブームとなり、モビリティーをつないで予約と決済をシームレスに行うMaaSビジネスに対し、多くの企業が乗り遅れまいと名乗りを上げ始めている。

 それはそれでよいのであるが、では自動運転車やMaaS化でモビリティーの課題は全て解決できるかと問えば、必ずしもそうでないように思える。19年を迎えるに当たり、将来のモビリティー像のあり方について考えてみたい。

都市化がキーワード

 現代の大きな課題の一つは、人口が都市に集中し始めていることであろう。「国連世界都市化予測(18年版)」によれば、1950年には世界人口の30%が都市に住んでいたが、2018年には55%へと急増している。さらに50年には68%の人が都市に住むと予測されている。

 しかし、このような現象にはどう考えても困ったことが生じる。人々が都市に集まるのはよいが、家にじっとしているわけはなく、あちこち移動するであろう。大量移動時代の幕開けである。東京、名古屋、大阪などの大都市は自動車、バスだけでなく、鉄道、地下鉄も充実しているが、都市化によりさらに人口が増加すると、果たしてこのままで十分であろうか。

 モビリティーには、一度に運べる人数に限度がある。自転車であれば1~2人、自動車は1~8人、バスは50人程度である。鉄道の場合は、JR東日本によれば、山手線の車両は11両編成で、内回り・外回りともそれぞれ23本運行しており、輸送量は1時間当たり各6万人とのこと。つまり1本当たり約2600人運んでいることになる。

 自動運転車が普及しても、運べる人数は極めて少なく、例えば東京に500万台の自動運転車が普及したと考えると、道路は自動運転車でつながってしまい、スムーズな運行は難しいように思える。このような背景から、筆者は、自動運転車や自動運転バス以外に、鉄道との中間を埋めるモビリティーが必要となってくるのではと考えていた。

 筆者が勝手に考える新たなモビリティーの要件は(1)ある規模の人員を同時に運べること(300~500人程度/回)(2)ゼロエミッションであること(3)走行時はうるさくないこと(4)高齢者、身体障害者にもやさしい設計であること(5)その地域の都市計画と連動していること-だ。

既に萌芽が現れている

 具体的にはどのようなモビリティーがふさわしいかと想像するに、地下鉄のように地下深く潜るのではなく、地上にてトラムを連結した大型バス風の電気自動車(EV)のようなものがよいのではと思っていた。そのような中、なんと、名古屋市は18年12月中旬、「バス高速輸送システム(BRT)」として検討していた新公共交通機関の計画を発表した。「スマート・ロードウェイ・トランジット(SRT)」という名称で、自動運転や制御技術を取り入れた、未来型のバスをイメージしたものである。27年のリニア中央新幹線開業時に全面開通できるよう、事業計画の策定を目指すようだ。

 また、全く別の発想であるが、米EV大手テスラの最高経営責任者(CEO)を務める実業家、イーロン・マスク氏は、採掘会社ボーリングを設立し、ロサンゼルス郊外の地下に完成させた高速地下交通システムの試験トンネル開通イベントを公開した。「ループ」と呼ばれる新交通システムは、地上からエレベーターでEVを地下に下ろし、台車の上にセットすると、時速約200キロで地下トンネルを移動できる。ドライバーは直接運転する必要がない。渋滞解消を狙ったマスク氏のアイデアであり、将来が楽しみである。

 このように、既に動き出している企業や団体もあり、19年は人口の都市化に対して、モビリティー関係者、都市計画・建築の専門家、自治体関係者などが集まり、独自の知恵やアイデアを出しながら、その地域にどのような新モビリティーを創造していくのか、議論することがよいのではないだろうか。交通インフラは計画から実行まで長い時間と多大な費用を要するため、長期戦略を立てて進めていく必要があろう。

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。62歳。福井県出身。