【視点】中国の宇宙開発 対米国ラウンドのゴングが鳴った
中国の無人月探査機「嫦娥(じょうが)4号」が3日、月の裏側に着陸した。世界で初めての成功だ。米国もロシアも達していない領域への進出である。
米国と激しい貿易戦争を展開する中で、「宇宙強国」としての存在感を世界に強く示す中国の対応だ。
トランプ米大統領は2017年末、月に重点を置いた宇宙開発構想を発表している。その約1年後の、しかも年頭に、中国は難度の高い月の裏面に探査機を軟着陸させ、搭載していた探査車「玉兎(ぎょくと)2号」を走らせている。「どんなものだ」と言わんばかりの宇宙技術力の誇示である。(産経新聞論説委員・長辻象平)
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1960年代の月面では、東西冷戦下の米ソ両国によって、国家の威信をかけての先陣争いが展開されていた。
月面への硬着陸は、59年9月にソ連が「ルナ2号」で米に先んじ、その1カ月後に打ち上げられた「ルナ3号」は、人類がそれまで見ることのできなかった月の裏側の写真を撮影してみせた。
66年には「ルナ9号」が初の月面軟着陸に成功している。実はこの成功まで月面が硬い岩か、微粉末の厚い堆積層であるのか分からなかったのだ。
人工衛星の打ち上げから、有人宇宙飛行、宇宙遊泳、無人探査機による月面探査-まで終始、ソ連のリードが続いた。
こうした月面探査競争で、最終的な勝利を得たのは、米国の側だった。69年7月、アポロ11号による史上初の人類月着陸が決定的な一撃となったのだ。
月面探査でしのぎを削った米ソのライバル関係は、宇宙開発をめぐる日本と中国のこれまでにも通じるものがある。
人工衛星の打ち上げでは、日本の「おおすみ」が、中国の「東方紅」より2カ月早い70年2月に成功している。
月探査では、日本の探査衛星「かぐや」が、中国の探査衛星「嫦娥1号」より1カ月早い2007年10月に、月の周回軌道に入っている。
かぐやの後継機は、まだ飛んでいないのに対し、中国の嫦娥は2号(10年)、3号(13年)と回を重ね、今回の4号の月の裏側着陸につながった。
4号を、3号と同じ表側に降ろせば二番煎じにすぎないが、裏側への着陸で世界初の記録を宇宙開発史に刻んだのだ。
中国は月探査で日本に水を大きくあけたが、すでに独自の有人宇宙飛行とカーナビなどに使われる衛星利用測位システム(GPS)においても凌駕(りょうが)している。
中国のGPS「北斗」について中国政府は、昨年12月27日に全世界に向けた運用開始を発表している。北斗は、米国のGPSに対抗するシステムで、計画を約1年、前倒しにしてのスタートなのだ。
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中国は日本がうかうかしている間に、宇宙開発の主要分野で日本を一気に抜き去り、米国とのデッドヒートを演じるまでの力をつけてしまった。恐るべしである。
日本も参加している「国際宇宙ステーション(ISS)」の運用期限は2024年。米国はポストISSとして、26年ごろまでに月の周回軌道上に宇宙ステーションを完成させる構想を描いている。30年代の実現を目指す有人火星探査計画の拠点としても新ステーションを活用する計画だ。
これに対し、中国は有人宇宙船「神舟」と宇宙ステーション「天宮」の技術を保有し、本格的な宇宙ステーションの完成目標を22年ごろに定めて計画を進行中だ。
中国は年内にも「嫦娥5号」を月に送り込み、岩石などを地球に持ち帰るサンプルリターンに挑むとみられる。有人月面探査計画も聞こえてくる。
中国による月探査に資源獲得への野心を見ないとすれば、お人よしにすぎる。そもそも中国の宇宙開発は、1950年代に「両弾一星」のスローガンの下に始まっている。両弾は原爆と水爆で一星は人工衛星。覇権主義に立脚する宇宙開発なのだ。
地上での米中間の貿易戦争が一段落することがあったとしても、宇宙を舞台にした緊張関係はさらに強まる。
中国版GPS・北斗の運用開始で、タイトルマッチのゴングは鳴った。
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