【経済インサイド】チリ産ワイン、絶好調も今後は…待ち構える「大きな逆境」
チリ産ワインが絶好調だ。東京税関によると、2017年のチリ産ワインの輸入量は過去最大となった。2007年に日本とチリとの経済連携協定(EPA)が発効し、輸入にかかる関税が引き下げられたことがきっかけだ。今年はその関税が撤廃され、さらに輸入拡大が期待される。しかし、欧州産ワインの関税も今年は撤廃される。10月には消費税率が引き上げられ、酒税法の改正でワインは来年から段階的に増税となる。チリ産ワインにとって大きな逆境が待ち構える。
3年連続で首位
東京税関の調べでは、2017年のチリ産ワインの輸入量は前年比9.9%増の5万5519キロリットルで、比較可能な1988年以降、過去最大を記録。輸入量全体に占める割合も3割を超え、3年連続トップとなっている。
乾燥した気候や日照時間の長さ、昼夜の寒暖差、アンデス山脈から流れ込むミネラル分豊富な水…、チリはブドウ栽培に適した環境に恵まれている。19世紀後半、害虫・フィロキセラにより欧州の産地が壊滅状態となり、職を失ったフランスの醸造家たちがチリに流入した歴史がこの国の高い醸造技術を支えている。
こうした好環境に加え、日本とチリはEPAを締結したことで輸入にかかる関税は段階的に引き下げられている。世界貿易機関(WTO)加盟国から日本に輸入されるワインの関税は15%かかるのに対し、現在のチリ産にかかる関税は1.2%。今年4月にはゼロとなる。チリの労働賃金が安いこともチリ産ワインが他の国のワインよりも日本で安く流通する理由のひとつだ。
2007年は8.8%にとどまっていた輸入ワインに占めるチリ産のシェアは、2017年には31.0%と大きく拡大した。「ボージョレ・ヌーボー」などの人気で長らく首位だったフランス産を3年連続で上回り、今ではチリ産ワインは日本中のスーパーやコンビニで買えるなじみの存在となった。
酒税法改正が逆風に
だが、そんな好調ぶりが踊り場にさしかかろうとしている。4月にはチリ産ワインの関税が撤廃されるが、これに先立つ今月には日本と欧州連合(EU)のEPAが発効され、フランスやイタリア産のワインにかかる関税は即時撤廃される。それに合わせ国内の酒類各社が今月以降に相次いで欧州産ワインを値下げする予定だ。「チリ産ワインに押され気味だった欧州産ワインの輸入拡大に確実につながる」(洋酒輸入関係者)との見方が強い。
関税がなくなっても、10月に消費税率が8%から10%に引き上げられる予定だ。食料品などは8%に据え置く軽減税率が適用されるが、嗜好(しこう)品である酒類は対象外となっている。
さらに酒税法の改正によって2020年10月から26年10月にかけてワインは720ミリリットル1本当たり14円増税される。業界内では、2003年に行われた1本当たり10円の増税をきっかけに数年間、ワイン市場の前年割れが続いた苦い記憶がある。「わずかな増税額ではあるが、チリ産など安価なワインを好む消費者にとっては敬遠される原因になりかねない」(都内酒店)。
そう懸念を強める背景には、ワインの税率が上がる一方で、チューハイやハイボールの税率は2026年10月まで据え置かれ、ビールや日本酒に至っては税率が引き下げられる。こうした“競合酒類”が有利になる条件が整うことで、「消費者がワインから流出する」(洋酒輸入業界)と考えられるからだ。実際、近年はビール系飲料の出荷額が2017年までに13年連続で減少するなか、缶チューハイは高アルコール商品などが好調で販売が伸びている。
単なる価格戦略だけでは市場開拓が難しいワイン市場。恩恵が失われる中、どのように市場開拓を目指すのか。チリ産だけでなく、欧州産、さらには日本産も含めた大きな課題なのかもしれない。(西村利也)
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