【視点】戦後最長の景気拡大 「足踏み」続いた現実の直視を

 

 □産経新聞論説副委員長・長谷川秀行

 一連の統計不正で国の経済指標に対する信頼が揺らいでいる時期だけに、間の悪い感は否めない。それでも、政府にとっては経済運営の成果を再確認する材料にしたいところだろう。

 政府が1月の月例経済報告で、2012年12月の第2次安倍晋三政権発足と同時に始まった今の景気拡大局面が「戦後最長となった可能性がある」という認識を示した。

 過去の景気拡大期と比べると、今の景気は低成長で力強さに欠ける。回復の実感を伴っていないとの指摘も多い。

 ただ、過去最高水準となった企業収益や雇用環境の大幅な改善など、多くの経済指標が政府の判断を裏付けている。いまだ個人消費に勢いがないことを割り引いたとしても、日本経済は総じて堅調に推移してきたということなのだろう。

 そんな自負があるからか、首相は先の施政方針演説で「この6年間、三本の矢を放ち、経済は10%以上成長した」と語り、アベノミクスの成果に改めて胸を張った。

 好調な経済指標などを「証拠」として列挙し、自らの経済政策の妥当性をアピールするのが安倍流である。これからの演説では、「戦後最長」が実績の一つに加わるのかもしれない。

 だが、どうしても釈然としない思いが残る。統計不正があったので、政府統計に基づく景気判断など全く信用できないなどと目くじらを立てたいわけではない。潜在成長率が高まらず、低成長から一向に抜け出せない日本経済の課題をこの稿で論じるつもりもない。

 もっと単純に、戦後最長というフレーズ自体に違和感を覚えるのだ。

 端的にいえば、14年4月の消費税増税で急速に経済が冷え込んだあの時期も、本当に景気は拡大していたのかという素朴な疑問である。

 政権内では、8%増税がアベノミクス景気を腰折れさせたとの見方が根強い。だからこそ、税率10%を2度も延期したのではなかったか。ようやく今年10月に予定される増税に対して、異例なほど手厚い対策を講じるのも、かつての二の舞いを避けるためである。

 そうであるなら、今さらアベノミクス景気は戦後最長だと言われても、むなしく響くだけではないか。

 今一度、8%増税当時に政府がどんな景気認識だったのかを思い起こしたい。

 毎月公表される景気動向指数の基調判断をみると、増税の悪影響が色濃く反映された14年8~11月については、4カ月連続で「下方への局面変化」と明記していた。これは、数カ月前に景気後退局面に入った可能性を示す表現である。

 その後の分析でこの時期の景気後退は否定された。だが、少なくとも増税後の2年半ほどは景気の足踏み状態が続いた。この現実を直視しなければならない。

 リーマン危機後、日本を含む先進国の経済は、急激に成長することも落ち込むことも少なくなり、景気の変動がさほど大きくなくなった。その結果、従来のように景気の「山」や「谷」を明確にしづらくなった面はあるだろう。

 実際、民間エコノミストの中には、8%増税後の一時期、実質的には景気後退局面だったとみなしてもおかしくないという見方もある。そうだとすれば、戦後最長という評価自体が成り立たなくなる。

 それほど微妙な景気動向だったということは改めて銘記しておくべきだ。聞こえのいい景気判断が出たからといって、これを額面通りに受け取るわけにはいかないのである。

 一連の統計不正を改めて持ち出すまでもなく、客観データを適正に集め、それに基づく適切な分析・評価を行うことは、経済政策を進める上で極めて重要な必要条件となる。証拠に基づく政策立案(EBPM)の推進は、骨太方針にも記載された政権の基本路線だ。

 だからといって、都合のいいデータや指標ばかりを持ち出すようでは経済の実態を糊塗(こと)しかねない。政権の経済政策を適切に評価するためにも、その点を厳しく吟味することは無駄ではない。