【経済インサイド】昔は預金が7年で倍増 金融庁長官の「出張授業」
若いうちから金融への関心と知識を持ってもらうことを目的に、金融庁が職員を高校や大学などに派遣する「出張授業」に力を入れている。2月20日には遠藤俊英長官自らが東京都立小山台高校を訪れ、同校の定時制課程の2年生を対象に約2時間の授業を行った。まだ社会にも出ていないような若者を対象に、なぜ金融庁が授業を行うのか。遠藤長官が高校生に語ったこととは…。
お金に働いてもらう
教壇に立った遠藤長官。授業は生徒に向けた問いかけから始まった。
「皆さんは、何歳まで生きるつもりですか?」
「老後はどのくらいのお金が必要ですか?」
「どのくらいためておけばよいですか?」
「何歳まで働き、どのくらい稼げますか?」
ポカンとした表情の生徒たち。恐らくこれまで、あまり具体的に考えたこともなかったことなのだろう。
そんな生徒の表情を察してか、遠藤長官は「働くことで得られるお金は平均2~3億円といわれています」と解説を始める。そして、人生で必要となる支出についても列挙。教育費用は500万~1800万円、住宅費用の平均は一戸建てが4000万円、マンションなら4300万円程度…。
基本情報でイメージを植え付けると、本題に入る。「それでは65歳で退職するとしたら、老後の費用はどのくらい必要かな?」
日本の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳だ。人生100年時代とも言われる中、「教育費」「住宅費」と並ぶ三大費用の「老後の費用」は平均寿命が延びる中で、膨らみ続けている。
「そこで重要となるのが、貯蓄や投資などで老後に備えてお金を準備する『資産形成』で、お金に働いてもらうという発想です」。遠藤長官が授業の中で、最も伝えたかったことの一つだ。言葉にも力がこもる。
現預金に偏る資産
退職世代が老後に不安を感じることなく、豊かな生活をおくることは、個人にとってはもちろん、日本経済にも重要だ。しかし、日本人の金融資産の52%は現預金に偏っており、今のような低金利環境では、十分な資産形成ができていないという課題がある。
実際、29年までの20年間の家計金融資産の推移をみると、現預金の割合が13%と低い米国が2.23倍、24%の英国が1.75倍に増えているのに対し、日本は1.2倍で微増にとどまっている。
遠藤長官は「皆さんの祖父母世代は銀行に預けているだけで金利が10%、親世代は7%付いたが、今は0.01%しかつかない」と説明。資産が倍になるまでの年数は、10%だと約7.2年、7%だと10.2年だが、今なら6932年かかるとの試算を紹介し、生徒たちを驚かせた。
投資のすすめ
こうした環境下で、遠藤長官が最後に生徒に勧めたのが「長期・積立・分散」による投資だ。長期間にわたり、毎年少しずつ、国内外の債権や株式などさまざまな金融商品に投資を続けることで、リスクを分散させながら、世界の成長を取り込むことも可能だからだ。こうした投資であれば、短期的には資産が増減しても、長期でみると安定的に増加していくとされる。
若いうちに始めた方が有利ともされ、金融庁が高校生や大学生を対象に金融教育を行うのはそのためだ。また、29年秋以降に価格が乱高下した仮想通貨の購入者の多くが若者だったことも金融庁の危機感に繋がっている。「最初にやる投資としてはリスクが大きすぎる」(金融庁)からだ。
34年4月からは成年年齢も18歳へと引き下げられる。親の同意のない契約は取り消せる「未成年者取消権」も18歳以上は失うため、若いうちに金融リスクの正しい知識を持っておくことは重要なのだ。
授業を振り返り「(高校生に金融を教えるのは)むちゃくちゃ難しい」と苦笑いを浮かべた遠藤長官。自己採点も「40点」と遠慮がちだったが、生徒の1人は「大事な話だということは分かった」と感想を述べていた。
金融庁の担当者は「お金は一生つきあっていくものなのに、体系的に学ぶ機会が乏しい。1回の授業ですべてを理解するのは難しいが、関心を持つきっかけになってもらえれば」と語る。
「出張授業」は昨年7月の本格スタートから今回で計28回開催。91人の職員が“先生”に立候補しており、金融庁は来年7月までに職員の母校や要請のあった学校に、全員を派遣する方針だという。(蕎麦谷里志)
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