【高論卓説】ITで治安良くした中国 “マイナンバーカード”普及が成功導く

 
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 中国の産業政策「中国製造2025」が注目を集めている。2015年の5月に中国政府が発表した25年までの10年間の中国製造業発展のロードマップである。李克強総理がとなえる「大衆創業・万衆創新(大衆による起業・革新)」のスローガンの下、国を挙げて産業革新を行い25年には世界の製造強国にキャッチアップしようというものだ。

 米中貿易戦争で「中国は自国産業を過度に保護し、外国企業を圧迫している」と指摘されている産業政策でもある。米国を過度に刺激しないためか、発表以来毎年、全国人民代表大会の政府活動報告書で取り上げていたが、今年は中国製造2025に言及しなかった。

 中国は17年7月に「次世代人工知能(AI)発展計画」も発表している。20年にAIの分野で世界水準に達するのを目標としているが、清華大学の「中国人工知能発展報告書2018」によると、既に世界トップレベルの水準に達している。AIに関する論文総数と被引用数では中国が世界1位で、申請特許数でも米日を抑えてトップで、AI分野への投融資も世界の6割を占めるという。

 確かに、顔認証技術などでは実用面でも世界トップを走っている。中国政府の運営する社会監視システム「天網」プロジェクトによって、人気歌手、張学友の昨年の中国本土のツアーコンサートだけで、およそ100人の逃亡犯が監視カメラによって拘束・逮捕されている。

 中国全土で運用されている監視カメラの台数は2億台といわれており、そのうち2000万台以上が、15年から本格運用されている「天網」で利用されている。UNODC(国連薬物犯罪事務所)が発表している、国別の10万人当たりの年間殺人事件発生件数でも、16年の中国の数値は0.62件と低く、治安のいい国の一つでもある。

 わが国では、昨年のハロウィーンの際、東京・渋谷で一部の若者が暴徒化して軽トラックを横転させた事件で、防犯カメラの画像の収集や、残された指紋の採取、聞き込みなどにより約2週間後に外国人5人を含む15人を特定し、悪質な4人を逮捕した。この事件で警視庁は43人もの捜査員を投入している。時間も手間もかかっており、画像認識技術の犯罪捜査への応用面では中国に比べると遅れているようだ。わが国の防犯カメラは、中国のように集中管理されているわけではないので、個別にデータを収集しなければならず、人海戦術となる。

 中国では、国民全てがICチップ付きの顔写真入りの身分証明書を所持しており、銀行口座の開設をはじめ、社会生活を送る上の基盤となっている。身分証明書がなければ、航空機や高速鉄道の利用もできない。

 政府が運営している「信用中国」というサイトでは身分証明書のデータベースを基に、交通違反や借金の踏み倒しなどを、重ねて行う悪質なルール違反者の氏名を公開している。プライバシー保護の面での懸念はあるが、安全な社会を築く上での必要性を評価する人も多い。実際、社会全体のマナー向上という効果も表れている。

 わが国でも類似のICチップと顔写真付きの「マイナンバーカード」は導入済みだが、交付率はいまだ1割程度にすぎない。利便性の高いインフラが構築されているのに、有効活用されていないのはもったいない話だ。マイナンバーカードを持っていないと損をする仕組みをもっと増やすなどして、普及促進を図るべきではないだろうか。

【プロフィル】森山博之

 もりやま・ひろゆき 旭リサーチセンター、遼寧中旭智業研究員。早大卒後、旭化成工業(現旭化成)入社。広報室、北京事務所長などを経て2014年から現職。大阪府出身。