【高論卓説】米技術規制で高まる中国リスク 対象は広範、急がれる日本の対応

 
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 まもなく、中国向け共産圏輸出規制(COCOM)ともいえる米国輸出管理改革法(ECRA)が発動する。これは国防権限法(NDAA)とともに作られた新法であり、米国が国防上危険と考える国などに対して、米国の兵器転用技術や先端技術を輸出できなくする法律である。これまでも兵器転用可能な技術に関しては規制が設けられていたが、今回、これに14分野((1)バイオテクノロジー(2)人工知能および機械学習技術(3)測位技術(4)マイクロプロセッサー技術(5)先進的計算技術(6)データ分析技術(7)量子情報およびセンシング技術(8)ロジスティクス技術(9)3Dプリンティング(10)ロボティクス(11)脳・コンピューター・インターフェース(12)超音速(13)先進的材料(14)先進的サーベイランス技術)が加えられた。

 これは中国の国家発展のための開発目標である「中国製造2025」に指定されている分野とほぼ同じである。米国はNDAAで、これまで定義されていなかった先端技術なども国家の安全保障に関わるものと定義。先端技術企業やインフラなどへの投資を規制する外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)とともに中国への先端技術流出を防ぐ法律を作った。FIRRMAに関しては、既に先行実施暫定規制が公表され暫定的運用も始まっている。

 「これ以上、中国に先端技術を渡さない」という米議会の意思の表れであり、南シナ海の人工島や「一帯一路」などで拡張戦略を続ける中国への危機感を表したものであるといえる。また、安全保障を理由にした場合、制裁関税や制限などを行っても世界貿易機関(WTO)のルールに反さないことも大きな理由である。

 ここで問題になるのは日本の対応ということになる。ECRAには、再輸出に関する規定があり、これまで許可対象でなかった米国の持つ技術・製品が許可対象となり、日本企業や研究機関の米国技術の再輸出、中国内への移転、中国企業内でのやり取りに制約がかかる可能性が高い。MIT(マサチューセッツ工科大学)など米国の先端技術研究を行っている多くの大学は、華為技術(ファーウェイ)からの資金提供を拒否し、共同開発や技術供与などをやめると発表している。

 これはECRAに対応したものであり、NDAAによる規定で2020年8月までにファーウェイなどを排除しなければ政府資金が得られなくなる可能性が高いからである。

 ECRAでは、国内で永住権を保有しない外国籍者への移転(組織内の移転も含む)も規制(みなし輸出・再輸出規制)するとしており、許可制ではあるが中国人への移転は原則禁止になる可能性が高い。現在、日本の企業や大学では、中国企業との共同開発や産学協同の技術開発などが多数行われている。

 また、多くの大学では該当分野で多くの中国人留学生や研究者を受け入れているものと思われ、研究開発や人の処遇をどうするか大きな問題になるものと考えられる。米国は昨年、先端的な製造業分野を専攻する中国人大学院生の査証(ビザ)の有効期限を5年から1年に短縮。いつでも帰国させられる体制を整えている。諸外国への影響を考え、段階的な運用が行われると思われるが、日本の企業や大学もこれに従わなければ、米国からの二次的な制裁対象になる可能性が高く、対応しなければ存続の危機にまで発展する可能性すらある。

【プロフィル】渡辺哲也

 わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は『突き破る日本経済』など多数。愛知県出身。