「オーバーツーリズム」世界で頭痛の種 受け入れ能力超える観光客

 
観光客で混雑するイタリア北部ベネチアのサンマルコ広場=2018年4月(ロイター=共同)

 日本を訪れる外国人旅行者は増加の一途で、昨年は3000万人を突破し過去最多となった。だが観光客が過剰に集中し、住民の生活には支障も出始めている。受け入れ能力を超える観光客が押し寄せる「オーバーツーリズム」の問題。各国の取り組みを探った。

 入場税を徴収し混雑緩和 ベネチア「まるで遊園地」

 「水の都」として名高いイタリア北部ベネチアは長年、オーバーツーリズム問題と向き合ってきた。増加するマナーの悪い旅行者が街の景観や生活を破壊していると住民らは主張。市は「観光と暮らしの共生」を目指し、旅行者から“入場税”を徴収して混雑緩和を図ることを決めた。

 エメラルド色の運河をゴンドラが巡り、華やかな仮面や衣装を身に着けた人々が行き交う。カーニバル(謝肉祭)がひときわ大きな盛り上がりを見せた2月下旬、中心部のサンマルコ広場は観光客らで埋め尽くされた。旧市街の人口約5万人に対し、謝肉祭が最高潮を迎える日は例年、広場に4万人超が集結。市は昨年から広場への入場を2万人前後に規制し始めた。それでも橋には旅行者があふれ、路上にごみが散乱した。市への年間訪問者は2800万人に及ぶという。

 「たくさんあったパン店や雑貨店は土産物店に変わってしまった」。規制の必要性を訴える団体の広報担当者、トッマーソ・カッチャリさん(42)が嘆く。

 1987年には世界遺産に認定、観光客は増え続け、2017年の宿泊客数は500万人を超え05年比1.6倍に。賃貸アパートの宿泊施設への転用や家賃値上げが相次ぎ、退去を余儀なくされる住民も続出。この数十年で人口は3分の1になったとの統計もある。

 行政側も手をこまねいていたわけではない。景観保護や治安維持のため1987年に条例を制定、繰り返し改正してきた。ポイ捨てや路上での寝そべりを禁止し、違反者には最大500ユーロ(約6万3000円)を科す。人口減への対応として市所有の空きアパート360世帯分の補修も進める。

 さらに市議会は今年2月、日帰り観光客から3ユーロを徴収する入場税の導入を決定した。来年以降はシーズンに応じて最大10ユーロを課す方針で、観光客増の歯止めを狙う。

 だが効果を疑問視する住民は多く「入場料を取るなんてまるで遊園地。住む場所じゃない」との声も。観光客が“お得意様”であるはずの土産物店、ニコラ・ウッサルディさん(40)も「税金を取っても市が潤うだけ。人数を制限し、マナーも良くなるような抜本的な見直しが必要」とうんざりした様子だった。(ベネチア 共同)

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 アパートや民泊の数規制 バルセロナ「住民は皆郊外に」

 「昔は誰もいなかったのに」。スペイン北東部バルセロナのサグラダ・ファミリア教会前。ベンチに座った近隣住民のアレハンドラさん(93)は約80年前のスペイン内戦の頃、教会の扉は壊れていて子供の遊び場だったと教えてくれた。

 設計者、ガウディの没後100年に当たる2026年の完成予定に向けて工事は進み、今や年400万人以上が訪れる。アレハンドラさんは「活気があっていい」と穏やかに話すが、周りの街は一変した。観光客向けの土産店などが増え、市民向けの店は減った。

 祖父が始めた紳士服店で働くメリチェイ・アギレラさん(29)は「地区に住みたいと思う人が少なくなっている」と表情を曇らせた。

 バルセロナは1992年の五輪開催以降、観光地として急速に発展した。市の当局者によれば、人口約160万人の約10倍もの観光客が毎年訪れる。弊害も顕著で、観光局トップのジョアン・トレリャ氏は「観光客の集中を緩和させられないなら、もう増加は望まない」とまで述べた。

 近年、市政が特に力を入れて取り組んできたのは観光客向けアパートや民泊の制限だ。観光客に貸した方が収入が良く、賃貸住宅が減ったり、投資目的の物件購入が増えたりして家賃が急上昇。地元住民が中心部の旧市街などで暮らし続けることが困難になってきた。

 市は観光アパートの許可を限定して数を規制。取り締まりを強化し、2016年には違法物件の紹介をめぐり米民泊仲介大手エアビーアンドビーなどにそれぞれ60万ユーロ(約7500万円)の罰金を科すとも発表した。

 しかしオステレア大バルセロナ校のクラウディオ・ミラノ教授(社会人類学)は対策の難しさを指摘する。「観光客は今後も増加し、問題は悪化するだろう。住民は皆郊外に移り、イタリアのベネチアのようになる」と予想している。(バルセロナ 共同)