オランダ消費者議会から届く「攻めた」内容の機関誌
筆者が現在生活するオランダの人間は世界的にはケチと言われたりもするが、実際に接してみると、日々の幸福度や社会福祉に貢献するものなど、「出すところには出す」傾向も高く、要するに「お金を賢く使いたい」との印象が強い。
そのオランダ人の消費活動の応援団ともいえる団体が「消費者議会」。日本にも各自治体が運営するいわゆる「消費者センター」が存在するが、こちらは消費活動にまつわるトラブルの対応・啓蒙が主な活動。一方オランダの「消費者議会」は、消費者からの苦情対応もするものの、主な活動は巷に出回る商品の調査・検証である点が日本の消費者センターとはイメージが異なる。
政府の助成と会員からの会費のみで運営される絶対的独立機関の立場で、バターから車まであらゆる商品を対象に徹底的な検証を行い、その結果をメーカー・商品名付きで全て公表する。その内容が日本人の筆者には「これ公表していいのか?」と仰天するほど「攻めた」ものとなっており、ぜひ紹介したく筆を執った次第である。
世界的組織の「国際消費者議会」
そもそもオランダ消費者議会は、欧州消費者議会の、ひいては日本を含む世界120か国の消費者協会からなる国際消費者議会の一員である。その歴史は1950年代に遡り、現在もアメリカ・ヨーロッパに広がりロンドンに本部を置くその親組織の中でも活動をリードする立場をとっている。90年代には65万世帯(全国の世帯数の11%)が加入する世界一国内加入率の高い消費者団体となり、現在も35万世帯が会員登録している。
現在の活動は、国内に流通するあらゆる商品の検証とその結果の公開、消費者の啓蒙、消費者からの苦情に企業が全て公開で対応するオンラインプラットフォームの運営、途上国の消費者のサポートなどである。
機関誌の内容をご紹介
さていよいよ機関誌である。現在手元にある最新号である4月号の内容を紹介したい。
表紙には「お客様のお荷物は、外のゴミ箱の中に入れておきました」という見出しが大きく掲載されている。近年宅配便業者に関する苦情が急増しており、これも実際に寄せられた苦情とのこと(欧米では受取人が不在の場合、宅配業者が玄関先などに荷物を放置して行ってしまうケースがままあり、盗難や紛失などのトラブルの原因となっている。実際掲載されているケースでは、翌朝ゴミと一緒に回収車に持っていかれてしまったという)。
見出しには他に「『あの卵おいくら?』高いほど親鳥が幸せ」(以前別の記事でも言及したが、オランダでは卵は親鳥の生活環境によってランク分けされている)、「『緑のカーペット』23社の芝刈り機を検証」「『法廷へ』KLM、不条理な利用条件の廃止を拒否」とある。
KLMの「不条理な利用条件」とは、往復で航空チケットを購入した乗客が往路のフライトを無断キャンセルした場合、その時点で復路も自動的に解約されるというもの。これが問題視され、法廷で決着をつけることになったという内容である。
毎回お楽しみの「同一商品各社比較」は、今月はタマゴサラダ、芝刈り機、カメラ、オーブンレンジの4品。
タマゴサラダは食品メーカーのものから大手スーパーの自社ブランド品まで18品が比較されている。価格、一パック当たりの内容量、100g当たりの値段、卵の割合が明記され、議会のメンバーの試食による味のスコア、塩分含有量、動物愛護度、飽和脂肪酸、砂糖、たんぱく質、パッケージの7項目からスコアを出しランキング。
カメラは28製品が検証されている。採点項目は「写真の質」「スピード」「操作性」「モニター」など7点。やはりというか、ランキングはほぼ日本メーカーの独壇場だ。「最も品質が優れているカメラ」とされたのがパナソニックのLumix DMC-TZ100、「ベストバイ」と評価されたのがCanonのPower Shot G7 XII。その他各項目の高得点と低得点が見やすいように色分けされている。
他にも「スーパーチェーン各社、オーガニック食品平均価格ランキング」「家電の最善のリサイクル法」「スマホ修理チェーン店価格比較表」など、消費者に嬉しい記事が盛りだくさんだ。
ちなみに会員は、ウェブサイトで今までのほぼ全ての検証データや、機関誌に掲載されなかった調査の結果も見ることができる。現在トップページに表示されているものは「コンソメキューブ各社製品比較」だが、記事の見出しと冒頭部は出し抜けに「あなたが買っているその『コンソメ』は、ほぼ塩です。コンソメキューブは、本来のコンソメの原料である肉や野菜とはほぼ無関係の、塩と香料の塊です。当然体によくありません」である。何かコンソメキューブに恨みでも? と勘ぐってしまうほどの歯に衣着せなさだが、これも独立法人である強みだろう(ちなみにこれはあくまでオランダで流通している製品に限っての話なので、日本で販売されているコンソメキューブとは関係ない評価である。オランダの安物のコンソメは本当にしょっぱい)。
担当者に話を聞いた
ここまでやりたい放題な印象を受けると、素朴な疑問がわいてくる。メーカーとトラブルになったことはないのか? どうやって独立性を保っているのか?
消費者議会でデジタル製品の検証を担当するイーヴォ・ヴェルスクール氏が答えてくれた。
「調査結果は一般公開の前にメーカー各社にフィードバックします。もちろんメーカーからクレームがきたり、時にはメーカーが検証データの無効や非公表を求めて訴訟になることもありますし、過去には敗訴したこともあります。あまり嬉しくないことですが、実験を行う研究所のスタッフが、メーカーに個人的に呼び出されるなどということもありました。
メーカーとの対話には常に応じます。私たちも人間ですから、検証結果に間違いがないとは限りません。こちらに非がある場合や疑わしい場合は、検証自体をもう一度やり直すこともあります。しかし数十年の歴史の中でこういったケースが繰り返される中、私たちは確固とした分析方法と手順、ルールを確立させ、独立性を保つ一方関連メーカーと密に連絡も取りあうようにしてきました。良質の分析・検証を行うことが、こういったトラブルへの何よりの対策です。
独立性を保つ方法ですが、私たちは分析対象の商品は必ず自分たちで購入します。メーカーやブランドからは交通費や贈り物の類は一切受け取りません。機関誌に広告も絶対に掲載しません。足場を強く保つため、他国の消費者会議と協力します。分析を依頼する研究所も、独立性を確認して決定します」
総合するに、どうやらクレーム対策はとにかくメーカーがぐうの音も出ないくらい完璧な検証を行う、ということに尽きるようだ。
100%消費者の味方の「消費者議会」は、これからも賢い消費者を増やすための活動を広げていくという。ヴェルスクール氏は、インタビューをこんな言葉で締めてくれた。
「お金と時間は、できる限り賢く使われなければなりませんから」(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R))
《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。