8人部屋に160人収容のケースも フィリピン、麻薬犯罪対策強化で刑務所過密化
フィリピン各地の刑務所が、受刑者で過密状態になっている。平均して定員の4.4倍が収容され、中には20倍超の例も。もともと施設は足りていなかったが、ドゥテルテ政権が麻薬犯罪対策を進め、逮捕者が急増したことが背景にある。受刑者は劣悪な環境に置かれており、刑務官からは「十分な更生が期待できない」と不満が漏れる。
「皆怒りっぽく」
首都マニラにあるナボタス刑務所。3月に施設が増設されるまで適正収容人数は38人だったが、2月現在では18~70歳の男945人が服役し、超過率は全国トップを独走していた。
3つある雑居房は長さ約30メートル、幅約2メートルの通路の両脇にある。1室8人程度が利用すべきところ、約160人がすし詰めにされ超満員だ。通路の天井に設置された大型扇風機1台が、狭い空間に充満した汗の臭いと男の熱気をかき回していた。
雑居房の写真撮影は認められなかったが、中をのぞくと、多数の目が一斉に記者の方を向いた。囚人服の黄色いTシャツを着た男たちが黙って膝を抱えて床に座り、身動きもしない。房内ではスペースが足りず、夜間は外の通路に寝たり、ハンモックをつるしたりしているという。日中は教会のボランティアの講話を聴くなどして過ごす。
麻薬犯罪に関わり、2016年10月から服役するマーティン受刑者は「人が多すぎて何をするにも集中できない。受刑者は皆怒りっぽくなっている」と不満を隠さない。
ペガラン看守長は「ドゥテルテ大統領の就任前、収容者は300~400人だった」と苦笑いする。「ここの受刑者の7割は麻薬絡みの罪を犯したんだ」と説明し、政権の強権的な麻薬犯罪対策の影響で受刑者が急増したとの見方を示した。
刑務官不足も深刻
フィリピンでは街中の売人から安価で麻薬が購入できる。仕事にあぶれた貧困層ほど麻薬に手を出し、現実逃避する傾向があるとされる。政府によると、ドゥテルテ氏が大統領に就任してから今年2月末までに約17万6000人の売人らが逮捕され、約5300人が裁判にもかけられず捜査当局に殺害された。
受刑者増加に伴い、刑務官不足も深刻化している。受刑者7人に対し刑務官1人が理想の配置で、ナボタス刑務所の場合は135人の刑務官が必要となる。しかし実際は46人だけで、監視の目が行き届いていないのが実情だ。
ペガラン氏は「出所後に生計を立てられるよう職業訓練もしたいが、スペース不足で難しい。更生が不十分になることが懸念だ」。別の刑務官は「更生できなければ受刑者はまた戻ってくる。塀の外と内をぐるぐる回るだけになり、何も改善しない」と嘆いた。(マニラ 共同)