「子供は老後の備え」は笑い話に…中国有名キャスターが語った老後問題
前回北京を訪れたときに、多くの友人たちが語っていたのが、テレビドラマ「都挺好(オール・イズ・ウェル)」についてである。「ひとごとじゃない」「身につまされる」「中国で最も大きな問題だ」…。(ノンフィクション作家・青樹明子)
ドラマのテーマは多岐に渡る。「(封建的な)男児重視」「ニートの実態」などで、なかでもメインは「親の老後」問題である。
ドラマでは、一家の母親が亡くなった後、一人になった父親を誰が引き取るのかという現実に直面する。妻の反対で長男は離婚の危機に陥り、ニートだった次男も妻と離婚。子供の頃から邪魔者扱いされてきた娘が、父親の認知症という事態に向き合わなければならなくなる。中国の認知症患者は既に1000万人といわれている。
「養児防老(子供は老後の備え)」というのは中国人の基本的な価値観だが、「それは既に笑い話になった」とずばり述べたのが、中国で最も人気のある有名キャスター、白岩松さんだ。白さんはいくつかのエピソードを紹介している。
まずは湖北省。警察が安全検査のため通行車を調べていたところ、後部トランク部分にうずくまるように座る高齢女性を発見した。車には女性の息子と妻、4歳の孫が同乗しており、子供を寝かせるために母親を荷物置き場に追いやったようだ。車は、女性が息子一家と同居する際に渡した老後資金で購入したものである。
別の81歳の女性は、夫を文化大革命(文革)で亡くし、女手一つで娘を育てた。娘は清華大学を卒業後、米国に留学。現地で就職、結婚したため、女性も孫の面倒をみるために米国に移住した。その際彼女は、全財産である北京での住居を売り払って娘に渡したのである。ところが娘は離婚し、米国人と再婚。娘婿と折り合わない母親が望郷の念にかられると、娘一家は飛行機のチケットを母親に与え、無一文同様で中国に「捨て去った」。
これまで見られなかった現象が、なぜ頻繁に起きるのか。白さんは「高齢化の速さに自分たちの頭がついていかない」からだと言う。老後を子供に託すのは、現実問題としても無理だ。2012年には5人で1人の高齢者を支えたが、13年には2人で1人、50年には1人が1人を支えていかなければならなくなる。
「人は誰でも年を取る。老後どう暮らすか、今すぐ決める必要がある」(白さん)
「都挺好」では、何をもって「全て良し」としたのだろう。長男は自分の家庭を守るために米国の家族の元へ戻り、ニートだった次男は自立を目指してアフリカ赴任を決めた。認知症の父親は、家族からないがしろにされてきた娘が企業トップの職をなげうって自ら介護する道を選ぶ。大ヒットドラマの着地点を見る限り、中国人の老後は、まだまだ伝統的な観念から解放されてないことを強く感じた。