ロングラン公演中のマスゲーム
北朝鮮がかつてないほど外貨稼ぎに躍起になっている。今年、史上初となる4ヵ月を超えるロングラン公演中のマスゲームは、6月3日から中国の習近平国家主席の訪朝などもあり、2週間ほどの中断を挟み10月中旬まで週6日で行われる予定となっている。
元々北朝鮮の最大の芸術祭マスゲームが定期公演となったのは、2002年に金日成主席の生誕90周年を記念して始まった「アリラン祭」のメインイベントとして始められたものだ。水害による1年の休演があったものの、2013年まで北朝鮮最大の集客イベントとして実施されていた。参加人数が10万人規模とされギネスブックに認定されたこともあり、世界的にも知られている。
終了したマスゲームが昨年、北朝鮮建国70周年を記念して5年ぶりに復活して日本からも多くの日本人が訪朝して観覧した。昨年のマスゲーム復活は、建国70周年を祝う特別な1年限定開催かと思わせておいて、今年も何食わぬ顔してマスゲーム公演を発表し、テーマを変えて公演されている。
2013年までのアリラン祭では、早くても7月末開始で、中国の国慶節(建国記念)連休が終わる10月1週目くらいまで開催され、通常は8月中旬スタートの年が多かった。それらを考えると6月3日スタートがいかに早いかが分かると思う。
中国人実業家の実感
なぜマスゲームをこれほど早く始めたのか。それは、北朝鮮がかつてないほど外貨不足に陥っているからだ。
今年に入ってから訪中した北朝鮮政府関係者と面談した中国人に、「外貨が不足している」や「年内までに何としかしなければならない」などの窮状を訴え始めたという。面談した中国人実業家は、過去、訪中する北朝鮮政府関係者や高官などが経済状況の深刻さを訴えてくるなんて聞いたことないと驚き、「やはり国連制裁は効いているんだ」と思ったという。
現在、北朝鮮が手っ取り早く外貨を稼ぐ手段が、「観光業」だ。観光収入は、国連制裁に抵触しないため、現状の北朝鮮が外貨を獲得できる数少ない方法となっている。
昨年、建国70周年記念の特別公演だからとマスゲーム観覧料を5年前よりも大幅に跳ね上げた。2013年までは、観覧者は3等席80ユーロ(約9750円)、2等席100ユーロ(約1万2200円)、1等席150ユーロ(約1万8300円)、VIP席300ユーロ(約3万6500円)までの4グレードから選べたが、昨年の復活公演では、3等席100ユーロ、2等席300ユーロ、1等席500ユーロ(約6万9000円)、VIP席はなんと800ユーロ(約9万7500円)と3倍近くも値上げした。
しかし、これも今年限りの特別公演だからと多くの観覧者は納得しただろうが、その値上げした観覧料は今年もそのままスライドさせている。
会談実施で中国人訪朝者が急増か
現在、北朝鮮を訪れる外国人の9割ほどは中国人で、昨年は推定10万人前後が観光客として訪れたと見られる。この10万人にはパスポートなしで往来できる中朝国境近くの特別エリアは含まない。
先日発表された「ヘンリー&パートナーズ」(英国)のパスポートの自由度ランキングによると、中国のパスポートは70の国と地域へビザなしで行けるとなっているが、アライバルビザ(現地到着後に取得する必要があるビザ)も含まれるため、現実的にビザなしで入国できる国は少なく、アジアだと北朝鮮とインドネシアくらいとなる(ちなみに日本は190の国と地域で2年連続世界1位)。
北朝鮮を訪れる中国人は、2016年ごろからの中朝関係の悪化で減少していたが、18年3月に金正恩委員長の初となる外遊で中朝首脳会談が行われたあたりからV字回復を遂げて中国人訪朝者は急増している。
必ずマスゲームを観覧しなければならない
今年のマスゲームがこれまでと違うのは異例のロングラン公演だけではない。マスゲーム開催期間中に平壌を訪れた外国人は必ずマスゲームを観覧しなければならなくなった。マスゲームは本来「オプション」なので、観覧を希望しないという選択肢もあったのだが、今年は全員観覧となった。これが意味するところとして、中国人から人民元をさらに吸い上げたいという北朝鮮の狙いが透けて見える。
日本人やヨーロッパ人など中国人以外の外国人は、マスゲーム観覧を旅のメインくらいに考えているので、ほぼ全員が観覧を希望していたが、中国人観光客は全体の半分くらいが観覧を希望していなかった。
その理由は、中国人は原則20人や30人などのグループ旅行が前提のため、旅費が安く設定されている。個人でも手配できる日本人やその他の外国人は、中国人と比べ2、3倍ほどの旅費がかかるなど格差がある。
そのため、3等席の100ユーロであっても、中国人観光客には相対的に200、300ユーロとなり、非常に高額なのだ。1時間ちょっとで終わるマスゲームなんて観覧しないで、最小限の追加料金で美味しいものを食べたり、買い物したり、遊びたいとなり、半分くらいが観覧を希望していなかった。
そこで、今年の全員強制観覧となったと思われる。これで、これまで中国人の半分から取り損ねていた貴重な外貨を稼ぐことができるわけだ。マスゲームへ参加する北朝鮮の子どもたちは10月まで大変そうだが…。(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R))