米中対決の本質と行方 中国はなぜ強硬姿勢なのか
米中貿易摩擦ならぬ米中対決は、米国が中国を圧力の強化によって屈服させようとするのは、基本が間違っている。なぜか。中国にしてみれば、アヘン戦争から1世紀余の長きにわたって列強・先進国から屈服を強いられたことを想起させ、そのため米国との交渉で譲らないことが、以前受けた痛みに対するトラウマを解消することになり、今回は歴史上できなかった後には引かぬ決意を固めさせるからだ。(上智大学名誉教授・大和田滝惠)
本稿では、中立の立場で論点の本質を探る。この問題は何がポイントなのか。先進諸国・旧列強が支配する国際経済体系を抜本改変し、発展途上国が公平に経済交易に参加できる国際経済体系にしようと模索してきた中国の国際社会へのチャレンジに根がある。
国家戦略の成り立ち
米国が中国に変更を強いているのは主に、国営企業への補助金の問題と知的財産権の問題だ。まず、国営企業、大型民営企業の技術水準を引き上げる補助金の見直しは、過去に列強から受けた干渉を想起させ、内政干渉を強く意識させるため、アレルギーのごとく反射的な拒絶反応を引き起こす。この問題は、習近平体制が断固として守るとする核心的利益、つまり国家の操縦に関わる最も重要な国益であり、譲歩はあり得ない原則問題だといえる。ここを変更させるのは極めて困難であって、トランプ米大統領のような中国を知らなさすぎる視野で攻勢をかけると、中国をさらに強硬姿勢にさせる。
次に、外資進出企業に技術移転を迫る知的財産権の問題だが、「強制的な技術移転」だといわれ、不当な方法を使ったと非難されている。実はこの問題に、先進国が支配する経済的な国際体系を切り崩し、先進国を凌駕(りょうが)する国力保有を目指した中国の国家戦略が隠されている。長年、先進国が支配する国際経済体系に発展途上国が対等に参入することは難しかった。どう切り込めばいいのかと、中国は1980年代から国際社会へのアクセスでありながら国内法の裏付け措置を整えることで、かつて戦ったゲリラ戦のように先進国企業を個別に撃破し、国際経済体系に切り込む国家戦略を練り上げていた。
外資側の権益を吸収しながら、外資との合弁企業が中国側単独経営の企業へと所有形態を変えられるように、中外合資経営企業法の第12条で「中外合弁企業の契約期間はパートナー相互で協議して決める」と規定し、契約不更新の法的自由を保証した。また、合弁企業は外資側が機械設備を中国に持ち込み、中国側が負担する土地や工場や原料や労働力などと同等の扱いでその工業所有権や特許技術が中外共用に供されるが、中外合資経営企業法実施条例の第46条で「技術移転取り決めの期間終了後、技術導入側は引き続き当該技術を使用する権利を有する」と規定し、中国側の高度技術の吸収、製品の自己開発能力および国産化の進展をバックアップした。さらに、中外合資経営企業法実施条例の第60条および第61条では製造製品の大部分は国際市場への販売が奨励され、共同経営に当たる中で中国側も国際市場・外貨の獲得能力を高めていった。
進出の自由と国内法優先
これらは一見、国家ぐるみで不正を行っている不当な発展戦略のように見えるが、外資は中国の良質で低廉な労働力や広大な市場を求め、安価な一次原材料やインフラ利用料金に魅了されて進出する。今日の世界では、どの国も他国の治外法権を認めておらず、国内法優先であるから外資に進出の自由な選択権がある以上、進出先の国の法律に従うのも当然のことだといえる。
ここには、現下の国際経済が置かれている制約が2つ、必然的に生じると考えておくべきだ。一つは、現地国家の法制度の順守は、主権国家が寄り集まる世界の限界である。もう一つは、労働力や市場獲得の進出は自由であり、その上で生じる進出側と受入国とのギブ・アンド・テークは、資本主義における経済的自由の宿命である。
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【プロフィル】大和田滝惠
おおわだ・たきよし 上智大学国際関係論博士課程修了。外務省ASEAN委託研究員、通産省NEDO調査報告委員会座長、中日環境科学技術交流会議学術委員会委員、中国江蘇省経済社会発展研究会高級顧問、上海環境会議議長などを歴任。68歳。東京都出身。