経済インサイド

豚コレラ、中国などから侵入か 感染拡大に農水省は手詰まり

 昨年9月に26年ぶりに発生し、現在も猛威を振るっている豚コレラの感染経路について、農林水産省の疫学調査チームが中間とりまとめを公表した。中国やその周辺国からの旅行客が不正に肉を持ち込むなどしてウイルスが日本に入り、ウイルスを含む肉が廃棄されて野生イノシシに感染したのが発端になった可能性がある。

 感染経路の究明により、ウイルスの封じ込めが急がれるが、効果の高いワクチン接種ができない“お家の事情”もあり、農水省は思い切った対策を打ち出せないでいる。

 一連の感染で大きな役割を果たしているのは、野生イノシシだ。感染地域が拡大している理由について、農水省はウイルスが強毒でなくなったことを上げる。1970年代に流行したときは強毒だったため、野生のイノシシが数日で死んだ。今回のケースでは、イノシシが数週間生きながらえるため、感染が広がっているというわけだ。

 調査チームの分析対象になった事例では、出荷先を含めて岐阜、愛知、長野、滋賀、大阪の5府県で豚への感染が確認された。農水省は、畜産農家に対し、車両の洗浄・消毒、野生イノシシが入ってこないよう防護柵の設置などを徹底するよう改めて呼びかけた。

 こうした中、豚コレラの被害防止を訴える発生地周辺の養豚農家からは、被害拡大を防ぐためにも一刻も早い豚へのワクチン接種を実施すべきとの声が上がっている。

 長野県の阿部守一知事は8日、農林水産省を訪れ、感染拡大を防ぐために農場で飼育する豚にワクチンを接種する必要があるとの考えを吉川貴盛農水相に伝えた。阿部知事は「豚へのワクチンは最も効果的な手法。県内の農家は一日も早く打ちたいと思っている」と述べた。

 農水省は、発生県の豚に対するワクチン接種の是非について検討を始めている。対象地域の豚の移動を制限したり、豚肉が域外で販売されないようにしたりするなど、ワクチンを使った豚肉が地域外に流通しない厳格な仕組みを構築することなどを協議している。

 しかし、吉川農水相は2日の会見でもワクチン接種について、「慎重に判断していく」との姿勢を崩さなかった。なぜなら、豚にワクチンを使うと、国際機関が豚コレラを撲滅しているとして認定する「清浄国」への復帰に時間がかかり、各国が日本からの豚の輸入を避ける可能性があるからだ。

 最近では、タイが日本から豚肉の輸入を始めることで合意したばかり。政府全体で農産品の輸出額目標1兆円の達成に向け、弾みがつくと喜ぶ中、水を差すようなことはしたくないというのが農水省の本音だ。

 こうした中、豚コレラより致死率が高く、有効な治療法やワクチンがない、アフリカ豚コレラが中国や北朝鮮などで発生し、新たな脅威にもさらされている。 豚コレラの感染地域の拡大について、菅義偉官房長官は7日の記者会見で、「極めて重大な局面を迎えている」との認識を示しており、まさに緊急事態を迎えている。

 農水省は「指導、指導結果の報告要請、飼養衛生管理の遵守を徹底させる」(吉川農水相)ほか、空港での水際対策に躍起となっている。ワクチン接種という“伝家の宝刀”なしで、事態を収束させられるのか注目される。