【中国を読む】中国・ロシア蜜月も…一帯一路、「北京-モスクワ」の高速鉄道は幻か
現下の中露関係に関して、おおむね良好という見方が一般的である。2013年の習近平国家主席就任以来、習氏とプーチン大統領の間でこれまでに30回以上繰り返された中露首脳会談からも、いわゆる「中露蜜月」がうかがえる。こうした友好的な雰囲気のなか、中露間では巨大経済圏構想「一帯一路」の関連でさまざまなプロジェクトが進められている。(アジア経済研究所・熊倉潤)
5年前に覚書署名
有名なところでは、中国各地とヨーロッパ各地をロシア経由で結ぶ定期貨物列車「中欧班列」がある。もっとも、重慶と欧州を新疆経由で結ぶ定期列車「渝新欧」は、実際には胡錦濤時代の11年3月から運行を始めていた。その意味では、「中欧班列」の一部は「一帯一路」が世に出る前から存在していたともいえる。その他にも、ロシアを通過して中国と欧州を結ぶ全長2000キロの高速道路建設計画が、19年6月にメドベージェフ首相により承認されたという情報もある。
他方、最近は聞かれなくなったが、北京とモスクワを高速鉄道で結ぶ壮大な計画が、数年前に宣伝されたことを記憶している人も多くいるのではないだろうか。14年10月、中国国家発展改革委員会とロシア運輸省、中国鉄路総公司(当時)とロシア鉄道が、「高速鉄道協力覚書」に共同署名した。中国側の公式見解によれば、この覚書によって「中国の高速鉄道がモスクワまで延伸することも可能」になり、「北京からモスクワに至る高速運輸回廊」の建設を推進するとともに、特に「モスクワからカザン(タタルスタン共和国の首都)に至る高速鉄道プロジェクト」を優先的に実施することが明らかにされた。
しかし、このモスクワ・カザン高速鉄道に関しては、15年6月に中露間で「モスクワ・カザン高速鉄道プロジェクト調査設計契約」が締結され、16年11月に調査の終了が報じられた後、進展を伝えるニュースが途絶えた。15年6月の時点で中国の国有企業、中鉄二院工程集団の受注が決定したと報じられたが、その後、ドイツ、イタリア、スペインなどの第三国が同プロジェクトに参入するという情報も出るようになった。
18年8月、筆者がロシアを訪問した際、ある教授は、中露両国が共同で同高速鉄道プロジェクトを進める見込みは既になくなったとの見方を披露した。
蜜月の裏に警戒感
こうした見方の背景にはまず、中国が債務返済に行き詰まったスリランカのハンバントタ港を99年租借するとの報道などを受けて、ロシア国内のインフラ建設に中国が一国で参入することへの警戒が広がったことがある。ロシア国内ではまた、モスクワ-カザン間よりモスクワ-サンクトペテルブルク間の高速鉄道を優先的に建設すべきだという意見が強い。一方の中国側でも、18年頃から「一帯一路」の各項目の見直しが進んだことなどが関係している。以上のような展開を受けて、北京とモスクワを高速鉄道で結ぶ計画についても、最近では聞かれなくなったのである。
モスクワ・カザン高速鉄道は、当初の予定では、18年のサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会の開幕前に営業が始まるはずであった。しかし、営業はおろか、いまだ着工さえなされていない。モスクワ・カザン高速鉄道がつまずいたことで、北京とモスクワを高速鉄道で結ぶ夢も、はかなくついえたようである。もちろん将来、また思い出される日が来るかもしれない。しかし、いわゆる「中露蜜月」の裏側は万事順調とは言い難いようである。
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【プロフィル】熊倉潤
くまくら・じゅん 東京大学大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。2018年アジア経済研究所入所。これまでに米エール大学、ロシア国立人文大学、中国北京大学、台湾政治大学に留学。33歳。茨城県出身。
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