経済界・スタートアップ 協業探る 経団連など会合 資金力と迅速さ補完
経団連や経済同友会が相次ぎ、会員資格のハードルも下げ、スタートアップ(創業間もない企業)との連携を強化している。経団連が8月に開催した「スタートアップ委員会」の初会合には会員企業ら130人が参加、関心の高さが浮き彫りになった。10月1日には実際の協業を探るイベントも開催する。経済同友会もデジタル社会の生き残りに向け、今月9日に大企業とベンチャー経営者が未来を議論する円卓会議を開催し協業の実現を目指す。ただ、それぞれの文化の違いを乗り越えるには内なる改革も求められる。
開業率、欧米と差
経団連が重い腰をあげたのは昨年11月。スタートアップが入会しやすいように入会基準を引き下げ、アマゾンジャパンやメルカリなどの入会が続いた。経済同友会も今年4月、若手経営者の参加を促すための新制度を創設し、辻庸介・マネーフォワード社長ら6人を迎え入れた。
背景にはスタートアップをめぐる日本のお寒い事情がある。開業率(ある期間の事業所数のうち、新規の事業所数の割合)の国際比較では、米国や英国、フランスが十数%に対し、日本は5.6%にとどまる。世界では、評価額が1000億円以上の未公開企業を「ユニコーン企業」と呼ぶが、米国151社、中国82社に対して日本は上場したメルカリを除くと、AIの深層学習開発のプリファード・ネットワークス(東京都千代田区)の1社だけで、ドイツや韓国の後塵(こうじん)を拝している。
政府は2023年に20社のユニコーン企業を輩出することを成長戦略の中で掲げるが、簡単ではない。しかも現時点では、大企業が圧倒的に人的資源も資金も持っているのが実情で、日本がデジタル技術を使って新たなモデルを創造する社会を実現するには、大企業とスタートアップのオープンイノベーションが欠かせない。
経団連の永野毅スタートアップ委員会共同委員長(東京海上ホールディングス会長)は「大企業の出島戦略だけではなく、スタートアップのデザイン構想力と協業していく必要があり、スタートアップにも成長してもらいたい」と述べ、両者が強みを生かすことの重要性を強調した。
一方で、スタートアップは独創力で会社を成長させてきた過程で、内部体制の脆弱性が顕在化する事例もある。企画力や経営哲学を経済界の重鎮や経営者から学びたいとの思惑もある。
経済同友会の高島宏平オイシックス・ラ・大地社長は今年度に新設した社会保障や年金問題を議論する「負担増世代が考える社会保障委員会」委員長に就任し、「得難い経験になる」と話す。
“使い倒し”警戒
しかし、実際に大企業との協業を始めたスタートアップ側からは、大企業の意思決定の遅さなどを指摘する意見もある。ソニーから転じたプリファードの長谷川順一最高執行責任者(COO)は大企業とベンチャーの特性を熟知する一人だ。経済同友会の夏季セミナーに招かれ、同社幹部が週に100本以上の論文を読みこなし競争に挑む中で、「大企業は担当者が変わると方針が変わり、ベンチャーを使い倒そうという思惑も見え隠れする。大企業の政治でベンチャーを振り回すべきではない」と苦言を呈した。
経団連スタートアップ委員会の政策タスクフォース座長を務める出雲充ユーグレナ社長は、8月にスタートアップの成長を促進する上場市場のあり方についての提言を発表。「提言公表まで異例の早さでありがたい」と話したが、今後、経団連内でその提言をどう実行につなげるかなど内なる改革も求められている。
一方で、大企業とベンチャーの協業による新サービスの実用化には、政府の規制緩和も欠かせない。
米国発ベンチャーのドローン(小型無人飛行機)による輸送サービスが、インフラ不足の課題先進国ながらも規制緩和を進めたアフリカのウガンダでいち早くサービスを開始し、輸血用血液の輸送で人命救助に役立っているのは典型的な事例だ。自動車業界は、次世代モビリティー分野の規制緩和を進めなければ業界全体が生き残れないと危機感を示す。(上原すみ子)
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