海外情勢

世界の水源荒らす 中国の「ペットボトル飲料水」事情

 最近、環境大臣に就任したばかりの小泉進次郎氏が、国連総会が行われている米ニューヨークを訪問して話題になった。(山田敏弘,ITmedia)

 注目されたのが、環境問題を取り扱う大臣が、海外で環境に悪いと話題にされる牛肉のステーキをさっそうと食べに行ったというエピソードや、小泉大臣の気候変動についての発言だった。

 特に気候変動について、小泉大臣が「気候変動のような大規模なイシューに取り組む際には、楽しくてクールであるべきだ。そしてセクシー(魅力的)でもあるべきだ」と語ったことで、この「セクシー」発言が大きな話題になった。

 個人的にこの発言を聞いて感じたのは、同じ会見で国連気候変動枠組み条約前事務局長が「セクシー」という単語を先に使っていたから、ということもあるが、おそらくここ最近、世界中で高校生などが地球温暖化対策を求めるデモ活動を行っていることから、「環境問題を若い人たちが参加できる、かっこよくておしゃれなムーブメントにしていくべきだ」と言いたくて、「クール」や「セクシー」と述べたのではないかということだ。もしそうだとすれば、残念ながら多くの人にそれは伝わっていない。もしそうでないとすれば、そのような単語をここで使った意図とその意味を筆者には理解できない。

 米国や欧州などでは地球規模のイシューを議論する場で「セクシー」という単語を使ってもなんとなく許されるだろうが、国際的な舞台ではそうはいかない。そんな「軽さ」や単語は求められない文化や地域も少なくないからだ。不快に思う人たちも少なくない。世界的に活発に議論されている環境問題において、原発事故の後処理などを抱える日本の環境大臣の発言が世界から注目されるという自覚が足りなかったのかもしれない。

 そもそも、彼の特徴なのかもしれないが、発言内容が抽象的であることが少なくない。今回の「クール」発言のニュースをいち早く世界に報じたロイター通信もそう感じたようで、同記事の中では、他の発言について「without giving details(具体的な策は示さなかった)」とわざわざ付け加えている箇所もあった。

 その一方で、大手通信社が取り上げたことで彼の存在が日本を越えて広く知られることになったのは間違いない。「元首相の息子」という肩書の方が目立ってはいるが、「環境問題をsexyと言った大臣」と記憶されることだろう。

 小泉大臣のおかげと言うべきか、日本でも環境問題にあらためてスポットが当たりそうだ。喫緊の課題である地球温暖化問題にはぜひとも全力で取り組んでいただきたいものだが、本稿では今回、また別の環境問題を取り上げたい。

 その問題とは、「飲料水」である。

 中国の「ペットボトル飲料水」需要が急増

 いま世界では、ペットボトルに入った飲料水の消費量が増えている。それによって、世界的に大きな議論になっているペットボトルの大量消費が問題視されている。飲料水ブランドのエビアンはこの問題を重く受け止め、2025年までにペットボトルを全てリサイクルする(現在は3割)と発表するなど、対策も進められている。

 ただ問題はそれだけではない。飲料水を提供するための「水」の確保についても、大きな議論が起きているのである。

 基本的な話だが、私たちがよく飲んでいるペットボトルの水は、例えば山岳地帯の地下水などから得た水だったりする。それをペットボトルに入れ、飲料メーカーが販売しているのだ。

 ペットボトルの飲料水について語る上で欠くことができないのが、中国の存在だ。近年、中国では、世界でも特筆すべきレベルでペットボトル飲料水の需要が増加している。ペットボトル飲料水の輸入量は、2013年から18年までで実に3倍にも増加している。今では中国こそ世界最大のペットボトル飲料水市場である。

 飲料水コンサル会社ビバレッジ・マーケティングによれば、中国の飲料水消費量は、世界全体の4分の1にもなる。ただ中国では、水の汚染が深刻で消費できる量が制限されてしまっていたり、国内で得られるペットボトル飲料水よりも、特に富裕層が国外のペットボトル飲料水を求めたりすることで、輸入量も急増しているという。

 そんなことで今、中国企業が飲料水を確保するために、水源の買収などを行っている。そして、そんな国の一つであるニュージーランドでは、訴訟問題にも発展している。何が起きているのか簡単に言うと、地域から水という資源が奪われることで、地元の産業や農家などに悪影響が出るとして反発が生まれているのだ。

 無料で水をくみ上げる中国企業に反発

 中国の大手飲料水メーカーのノンフー・スプリングは、ニュージーランド北東部で、ペットボトルに水を詰める工場を建設しようとして、地元の反発を受けている。紆余曲折の末に、17年にはいったん工場建設のゴーサインが出たが、地元団体などが訴えを起こしたことで裁判が行われており、今後の行方は不透明な状態にある。

 またニュージーランド南島の都市クライストチャーチでも同じようなケースが起きている。このケースでは、中国企業のクラウド・オーシャンが水そのものにカネを払っていないことで地元が激怒。さらに環境汚染も指摘されており、19年はじめに近隣の水路から汚染水やプラスチック片などが見つかったことで同社は罰金の支払いを命じられている。こうした問題から、3月には中国企業に反対する抗議デモが行われて、「私たちの水を守ろう」というカードボードを掲げる人もいた。

 クライストチャーチの地元民は、水源を守るべく、夏場などは水の使用量をセーブして暮らしている。それにもかかわらず、クラウド・オーシャンは季節も関係なく水を無料でくみ上げているのである。しかも、中国国内ではクライストチャーチの水を安価な値段設定で販売しており、その事実がニュージーランドで報じられるなどして地元民を刺激している。今後もまだ騒動は続きそうだ。

 これらのケースでは、当初、政府が中国企業を誘致しようと推進していた経緯があり、問題を複雑にしている。最近になって、国はこの「推進」の計画を転換しているが、国の判断が絡んでいたことで裁判にもなり、メーカーと地元民、さらには市民団体が衝突している。

 実は、こうした中国企業が絡む飲料水関連の騒動は他の国でも起きている。ロシア南東部のバイカル湖からの水をペットボトル飲料水にして中国へ輸出するため、19年1月、湖の近くに工場を建設しようとしたケースが大きな話題になった。このニュースが知れると、ロシア国内で大きな騒動になり、署名活動サイトで110万人が反対の申し立てに署名した。それもそのはず、バイカル湖は世界遺産でもあるからだ。結局、3月にはロシアの裁判所がこの工場建設を違法であると判断し、工事は終了することになった。

 「It's not made in China(中国製品ではない)」という飲料水も

 余談だが、中国国内でもペットボトル飲料水は作られており、輸出もされているが、中国製のペットボトル飲料水は国外でイメージが良くない。例えば、19年1月に開催されたテニスの全豪オープンでは、公式ペットボトル飲料水が中国製だったことで批判が起きている。広東省深センの企業である百?水(Ganten)の製品だったが、なぜ水資源の豊富なオーストラリアが中国から水を輸入し、中国企業が有名テニス大会で公式スポンサーになっているのか分からない、とSNSを中心に炎上した。

 またこんな話もある。南アフリカに「It's not made in China(中国製品ではない)」という飲料水メーカーが存在するのだが、そのメーカーが販売しているペットボトル飲料水が「人種差別的だ」として中国で大反発が起きている、というニュースが少し前にあった。このケースでは「中国製ではない」という文句で商品が売れると見越して、飲料水を販売していたのである。

 そもそも、ペットボトル飲料水を1本作るのには、そのペットボトルの4分の1の石油、そして3本分の水が必要になるという(水問題を研究する米パシフィック・インスティチュート調べ)。決して環境に良いとはいえない。ただ現代では、ペットボトルの水が存在しない世の中は考えにくい。そうなると、どれくらい環境に優しく提供または消費できるのかを検討する必要があるということだ。

 世界にはこうした環境問題を真剣に検討している人たちがいる。環境保護団体や市民団体、民間企業、そして各国の環境問題を専門に扱う省庁の役人たちである。もちろん、小泉大臣のような環境大臣もその中に含まれる(はずだ)。

 さまざまな環境問題を考える省庁のトップとして、今回の「セクシー」発言が話題になったことで、今後は日本のみならず世界もその動向に注目するだろう。具体的な言動が求められている。(山田敏弘)

(ITmedia)