【市場の未来~豊洲移転1年~(下)】「築地も守り、豊洲も生かせるのか」 揺らぐ両立、稼ぎ頭はどこに
うまく肘を使って包丁を引き、マグロの柵(さく)をさばいてみせた。「魚がもっと好きになった」。でき上がったちらしずしの丼を手に持ち、東京都江戸川区の小学4年、森田遥香(はるか)さん(10)はにっこりほほ笑んだ。サーモンが好物といい、母親の恵子さん(42)は「魚を使った献立をもっと取り入れていこうと思いました」と満足した様子だった。
豊洲市場(江東区)開場1周年イベントが催された今月5日の土曜日。市場の管理棟では、仲卸業者らの指導のもと、親子が魚を調理して、ちらしずしを作る実習が行われた。
屋外の会場では、東京海洋大学名誉博士でタレントのさかなクンによるトークショーもあり、家族連れらが大勢訪れた。ここは、1年前には飲食店や温泉などが入る「千客万来施設」が整備されるはずだった場所だ。築地市場(中央区)の豊洲への移転が遅れた影響で、施設のオープンは令和5(2023)年に延期されている。
イベントで挨拶した江東区の山崎孝明区長は「いろいろすったもんだがあった。活気ある市場として発展させる。千客万来施設ができるまで何とかつないで、豊洲が愛される市場になるように」と願う。
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「築地は守る、豊洲は生かす」。平成29年6月、東京都の小池百合子知事は、こう表明した。しかし、31年1月の方針では、当初示していた築地の「食のテーマパーク」という文言が抜け落ち、都議会では「方針が変わったのでは」と厳しい追及を受けている。
小池知事は「築地に食文化は確実にあった。それを大切にする考え方は変わっていない」と強調するものの、変節したと受け取られても仕方がない。「食」としての築地が後退した背景には、豊洲の千客万来施設と競合し業者が反発していることや、豊洲の市場関係者も「築地の『食』と豊洲は両立しない」と抗議しているためだ。
ただ、豊洲の未来も万全とは言い難い。水産物の取扱量が昨年11月~今年8月の10カ月間で約28万9千トンと築地時代の同時期より約6%減少した。今秋のサンマ不漁に象徴されるような漁獲量減少の影響もあるが、人口減少や魚離れといった要因もある。
一方で運営費は築地時代よりかさんでおり、市場会計は年間10億円ほどの赤字を生むとの試算もある。
移転延期の原因となった建物下の土壌汚染の問題もくすぶる。都の調査では、今年8月も飲み水の環境基準を上回るベンゼンが検出された。
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築地はどうか。約23ヘクタール(東京ドーム約5個分)もの広大な跡地がある。銀座や有楽町など繁華街に近く、新たな「東京の顔」としても期待が大きい。
築地の跡地は、来年の東京五輪・パラリンピックの開催時、選手やスタッフらを運ぶ車両約2400台分のスペースを備えた大型駐車場になる。
しかし大会後はどのように活用されるのか、その行く末は不透明だ。
都の方針によると、跡地は4つのエリアに分けられる。国際会議場やホテルからなる「おもてなしゾーン」、大規模な集客施設を備えた「交流促進ゾーン」などを2040年代までに段階的に整備していく。隣接する浜離宮恩賜(おんし)庭園の魅力を生かし、観光客を呼び込むという。
ただ、「稼ぎ頭」がない。現段階でカジノは想定されていないものの、赤字の施設を避ける具体策が今後検討されていくという。
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この連載は天野健作、植木裕香子、斎藤有美が担当しました。
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