【中国を読む】中国・景気対策効果が表れる3分野を推察する

 

 ここ2年、中国では景気減速が続いた。中国政府が昨年まで、過剰設備・過剰債務の調整に向けて投資抑制策を講じてきたほか、米中貿易摩擦も激化したからだ。(日本総合研究所・関辰一)

 今後を展望すると、政策による下支えで、景気減速に歯止めがかかるとみられる。ただし、米中貿易摩擦の先行き不透明感や中国政府の大規模な景気刺激策に対する慎重姿勢から、当面の中国経済は力強さを欠く展開になるとみられる。

 インフラ投資底入れ

 これまでの政策効果は、具体的には以下の3つの分野で顕在化するとみられる。

 第1は、インフラ投資である。政府の昨年前半までの投資抑制方針によって与信と債務の急拡大に歯止めがかかった一方、地下鉄や空港、高速道路など数多くのインフラ整備プロジェクトが中断した。しかし、昨年後半には投資抑制策の手綱を緩めたため、一部のプロジェクトが再開され、インフラ投資は底入れした。

 本年に入ってからは地方債の発行枠が引き上げられ、金融機関の地方債引き受けも積極化した。さらに中国政府は9月、調達資金を着実に消化するよう要請し、地方政府は10月末までに調達資金を残さずプロジェクトに配分するよう義務付けられた。2020年の地方債発行枠の発表前倒しも決まった。来年分の地方債が10~12月期に発行され、インフラ投資の拡大に弾みがつくと予想される。

 第2は自動車販売だ。既に、自動車販売台数は5月をボトムに持ち直しの動きがみられる。とりわけ、地方で人気の排気量1600cc以下の小型車の販売が回復している。自動車生産も、在庫圧縮の一巡や販売回復を背景に持ち直しの兆しがみられる。7月1日から始まった新たな排ガス規制による販売への悪影響は事前に懸念されたほど大きくなく、むしろ景気対策によって地方経済が安定化しつつあることが自動車需要の回復に結びついている。

 今後を展望すると、自動車販売は地方経済の回復や販売てこ入れ策を受けて緩やかに持ち直すとみられる。ビッグデータや人工知能(AI)などIT産業の隆盛で活気づく貴州省貴陽市政府は9月、環境問題の改善や渋滞緩和を理由に、他の都市に先駆けて自動車購入規制の撤廃を決めた。今後、他の都市においても購入規制を緩和・撤廃する動きが広がる見通しである。

 年内に減速歯止め

 第3は、民間固定資産投資である。足元にかけては、16年からの投資急拡大の反動が出ているほか、米中貿易摩擦の激化や企業収益の悪化を受けて、民間投資の低迷が続いている。しかしながら、ここにきて企業部門の収益悪化に歯止めがかかったほか、政府が一連の投資誘致策を打ち出している。具体的には春以降、半導体集積回路とソフトウエア産業に対する企業所得税の減免を打ち出した。地方政府も産業補助金を導入している。

 中国人民銀行(中央銀行)も9月、預金準備率を8カ月ぶりに下げるとともに、新しい政策金利LPR(最優遇貸出金利)を2カ月連続で引き下げた。さらに、中小企業や製造業向け融資を拡大するよう要請している。これらを受けて、既に情報通信機器製造業などの固定資産投資は持ち直しつつある。

 以上3点から、年内には景気減速に歯止めがかかり、成長率も6%台をキープするとみられる。実際、製造業購買担当者指数(PMI)の新規受注指数も拡大と縮小の節目となる「50」超へ回復した。ただし、米国の通商政策や世界経済の先行きが不透明ななか、企業の将来不安は払拭しきれていない。また、中国政府は過剰設備・過剰債務の深刻化を警戒し、リーマン・ショック後のような大規模な景気対策には消極的である。こうしたなか、中国経済の力強い回復は期待できず、一進一退の展開となる見通しである。

【プロフィル】関辰一

 せき・しんいち 2006年早大大学院経済学研究科修士課程修了。08年日本総合研究所入社、19年から調査部主任研究員。拓殖大学博士(国際開発)。専門分野は中国経済。著書に「中国経済成長の罠」。38歳。中国上海出身。