【専欄】復活の兆し「北京不夜城」 夜間経済で中国版「働き方改革」推進?
日本の漫画・ドラマ作品「深夜食堂」は、中国でも人気が高い。さすが「夜宵(夜食)」の習慣がある中国だなと納得していたが、この数年、大都市では深夜食堂が激減していた。国の政策の影響か、特に北京などでは、夜は早じまいする店舗が多い。夜食のために夕食は控えめにしておなかのスペースを空けておく、といった人々には、寂しい夜が続いていたのである。(ノンフィクション作家 青樹明子)
それが今年の夏から秋にかけて、北京の街に変化が訪れた。「夜間経済」が復活し始めたのである。北京市政府は7月、「夜間経済13条」(略称)を発布した。ここでは「夜の街にランドマークを作る」「深夜食堂を推進」「夜間公共交通機関の充実」「文化方面のIT情報計画」などが挙げられていて、実現すると、かつての活気ある不夜城の再現も可能と言っていい。
夜間経済13条は、発表直後から、北京各所でその効果を見せ始めている。前門などの観光名所はもちろんのこと、夜のとばりが降りると人の流れがさっと引いていたオフィス街も様相が一変し始めている。
北京CDBビジネスエリアの中心にある複合商業施設「世貿天階」の北側110メートルほどの街並みでは、夜間経済効果が見て取れる。道の両側には3階建てのビルがびっしりと並び、多様な店舗がひしめき合っている。そのほとんどが7月から、営業時間が夜中の2時までに延長された。(新京報・2019年8月16日)
この地区の人口は196万人、国内外の有名企業283社が集い、1億元(約15億3000万円)以上の税金を納めている企業は、147社である。消費者の77%が近くに住むビジネスマンで、年齢層は25~33歳に集中し、活力ある消費者層である。
夜間経済は深夜食堂だけではない。美容院・ネイル・エステなどの美容関係、ファッションや雑貨店、映画や演劇、音楽ライブ、クラブなど多岐にわたる。語学学校などの文化講座なども、夜遅くまで開講するようになった。
特徴的なのは国営博物館の夜間開館である。普段は朝9時から夕方5時までだが、日曜日は夜9時まで開館する。中国国営中央テレビが行ったネット調査によると「もし博物館や美術館が夜間に開場していたら、行くか?」という質問に88.9%の人が「行く」と答えたそうだ。
北京の新聞「新京報」によると、北京のイメージはこれまで2枚の絵画だったという。1枚はミレーの「落穂拾い」、もう1枚は(欧州の絵画でよく描かれる)ソファに横たわる人物画である。昼間は腰をかがめて懸命に仕事をし、夜は疲れきって、家にたどり着くや否やソファに倒れ込む。夜間経済は、その固定イメージを変えることができるのだろうか。
「996(午前9時から午後9時で週6日勤務)」も珍しくなくなった中国で、今必要なのはプライベート時間の充実で、夜間経済は中国版「働き方改革」を推し進めるのかもしれない。
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