かつてあらゆる領域で世界を席捲した日本の製造業ですが、気がつくとスマホやパソコン、テレビ、オーディオなど多くの身近な製品で外国企業にお株を奪われてしまいました。もちろん部品や製造機器などではまだまだ強みをもっている領域もありますが、やはり生活者が手に取る最終製品を企画開発する醍醐味こそモノづくりの本分に違いありません。
そんな中で自動車産業は今や日本産業界最大の砦です。就業人口で日本の全就業人口の8.3%(539万人)、出荷額ベースで全製造業の18.2%(57兆524億円)<出典:一般社団法人日本自動車工業会ホームページ>と巨大ですし、その中に含まれていない例えば広告業界にとっても大きなお客様であるなど、日本社会全体への影響力、存在感は群を抜いています。
そんな大事な自動車産業に、ビジネスマンの誰もが知るように今大きな変化の波が押し寄せています。2016年ダイムラーAG・CEOでメルセデス・ベンツの会長のディエター・チェッチェ氏が使ったことで有名になったCASE
主催者側の気合も十分以上のもので、日本自動車工業会(自工会)の会長を務める豊田章男・トヨタ自動車社長が「100万人の入場者を集めるのが目標」と宣言し、ピークの1991年には200万人を超えた入場者数が前回2017年には77万人まで減り、また世界的にも出展社数が減るなどモーターショーの存在意義自体が問われる中での「東京モーターショー2019」に対して陣頭指揮をとるかたちです。
キッザニアゾーンで未来のユーザーをエンゲージメント
まず変化を分かりやすく感じたのは、会場が東京ビッグサイトだけではなく、ゆりかもめで一駅、歩いて20分ほどの東京ビッグサイト青海展示棟やMEGA WEB、それを結ぶシンボルプロムナード公園まで含めて展示エリアとしたことです。元々は東京ビッグサイト東棟がオリンピックに向けた改修工事で使用できないことによる苦肉の策ではあると思うのですが、それを逆手に取り、広域会場全体にちょっとしたお祭り感があって良かったと思います。
そして、子供向け職業体験型施設「キッザニア」とのコラボレーション企画”Out of KidZania in TMS2019”も非常に分かりやすい取り組みでした。実際に子供たちに参加してもらう就労体験の形で自動車に触れてもらう趣向です。今日本では、世代間ギャップなどという言葉をはるかに超えて、かつての多くの風俗文化が、例えば団塊の世代などかつての全盛期世代ごと廃れていこうとしています。
プロ野球しかり、飲み会文化しかり、ほとんどのレジャーで参加率が下がっています。そんなことの背景には、やはり我々大人世代の余裕がなくなってしまい若い世代や子供たちにしっかり自分たちが楽しんできたものの素晴らしさを伝えきれなかった部分もあるのではないでしょうか?やはり子供は大事です。我々の子供時代にもスーパーカーの巡回展示イベントなどに触発されてスーパーカーブームが起こり、その当時の多くの子供が今でも自動車好きです。自動車という長期戦略を担えるパワーのある業界だからこそ、目先だけにとらわれない素晴らしい企画だと思いました。
テンプレート自体をあえて壊すトヨタグループ
各社のブースではやはりトヨタグループにひと際力が入っていました。そう豊田社長自身が、「このブースには、来年発売されるクルマは1つもありません」とアピールしたように、従来のお披露目されたニューカーを中心に基本は自動車を並べるというモーターショーの基本テンプレートを自ら崩す意志を感じました。トヨタ自動車のブースは全体が未来志向です。スタッフの衣装からしてスタートレックの乗組員のようなフューチャリスティックなもので、さあトヨタが考える未来を見せてやるぞ!という気合を感じるものでした。
レクサスでは Lexus Senses Theater という体裁で、かつて限定販売された名車LFAが真っ暗闇の空間の中で、光の演出と音の演出で疾走する(実際の展示車両は止まったまま)という演出が最高でした。ちなみに筆者は実走するLFAを一度だけ目撃していますが、まさにあの音。クルマ好きならきっとシビれるはずです。
うがったことを言えば、MEGA WEBという自社施設を会場として提供していて、そこで必要な車両展示ができるゆえ可能な割り切りとは言えるのですが、モーターショーのあり方に一石を投じたことは間違いありません。
リアルイベントの価値が高まる時代
それに比べると、他の各社ブースの展示は、自動車を並べる+ステージイベントというモーターショーの式次第と言いますかテンプレートを超えるものとまでは正直感じませんでした。いや私もある意味中の人ですから良くわかるのです。長年にわたって様々な条件や事情の積み重ねで築き上げられてきたフォーマットです。大幅に変えるためにはほとんど非現実的と思えるほどのエネルギーが必要でしょうし、私が担当していれば「無理です」と言います。トヨタグループも豊田社長のトップダウンがあればこその新機軸であるに違いありません。
でも、来場者の視点で見るとどうでしょうか?そもそも自動車に興味があまりない人にとって自動車がたくさん並べてあることに意味はあるでしょうか?私のように自動車に非常に興味がある人間にとってさえ、見てみたい車両はその中の一部だけです。もっと言えば、クルマ自体を見たければいつでも販売店や、メーカーのショールームに行けば良い。
一方でネット時代になったからこそ、リアルイベントの価値は相対的に高まっていると言われています。今回の東京モーターショーには少なくとも変えていこう、変えていかなければという意志の端緒を感じます。まだまだ手探り感は正直ありますが、そこも含めてまさに自動車産業変化の時代を肌で感じ、来場者も自ら参加する実感を持てるイベントになっていると思いました。
日本にとって日本人にとっての自動車産業の死活的な重要さを考えると、モーターショーはもはや極端に言えば日本人全員参加のイベントにしても良いのかもしれません。例えば2年後の次回は、全国に無数にある自動車ディーラーや高速道路SA、道の駅などあらゆる自動車関係の施設を巻き込みながら、全国で開催するのはどうでしょうか?例えばモーターショーウイークは、全国のガソリンスタンドで色々なステッカーを配ってみんなで貼って盛り上がるとか、色々とアイデアはあるように思いました。ハロウィンではないですが、今回の東京モーターショー2019で感じられたより多くの人をインボルブ・巻き込みたい、エンゲージメント・応援してもらいたいという自動車業界の意志に対して、私を含めて多くの日本人が賛同すると思いますし、より多くの人が自動車にコミットすればするほど自動車の魅力はさらに伝わっていくのではないかと感じさせられた今回の東京モーターショーでした。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら