香港と同じ一国二制度 マカオではなぜ反中デモが起きないのか
【マカオ=藤本欣也】マカオを訪問している中国の習近平国家主席は19日、ポルトガルから中国への返還20周年を記念する晩餐(ばんさん)会などに出席した。約60キロしか離れていない近隣の香港ではこの日も、政府や中国共産党への抗議活動が行われたが、香港と同じ一国二制度下のマカオでなぜこうしたデモが起きないのか。“一国二制度の優等生”が誕生したその背景を探った。
マカオと香港の違いはまず、それぞれの旧宗主国であるポルトガルと英国によって形成された。
マカオでは1966年に中国系住民による大規模な暴動が発生、中国系住民側に死者が出た。反発した中国政府は人民解放軍を国境に集結させ、謝罪と賠償を要求。譲歩を余儀なくされたポルトガル政府とマカオ政庁の権威は失墜した。
マカオ立法会(議会)の民主派議員、蘇嘉豪(そ・かごう)氏(28)は「以後、マカオは親中派に牛耳られた。返還前に英国が民主化を進めた香港とは違う」と話す。
こうした歴史的背景に加え、返還前夜の状況もマカオの中国化を加速させた。
マカオでは99年の返還が近づくにつれ、中国の体制下に入る前にカジノの利権を確保しようと暴力団の抗争が激化、治安が極度に悪化した。このため返還と同時に駐留を開始する人民解放軍に、治安回復への期待を寄せるマカオ市民が多かった。進駐を拍手で迎えた市民もいたほどだ。
「香港の若者が今、抗議の声を上げているのは閉塞感があるからだ。マカオの若者とは異なる」と経済的背景の違いを強調するのは立法会の民主派議員、区錦新(く・きんしん)氏(62)である。
返還後、カジノ市場を開放したマカオは、昨年までの19年間で域内総生産(GDP)が9倍に激増。平均給与も3倍以上に増えた。
「マカオの経済発展の最大の受益者は若者たちだ。生きる権利が脅かされていると感じている香港の若者たちとは異なる」という。
一方、マカオ大社会科学学院の楊鳴宇(よう・めいう)准教授(32)は、アイデンティティーの問題を指摘する。
「香港では自らを“香港人”と考える人が増えている。香港映画、香港音楽といった香港人意識を醸成するような文化もあるが、マカオにはない。自らを“中国人”と考える人が多い」
マカオには、マカオ人として結集する土壌がまだないというわけだ。
国家分裂や反乱の扇動、政権転覆を禁じた「国家安全法」(2009年制定、香港は未整備)がマカオ市民への無言の圧力となり、「自己規制が進んでいる」(蘇氏)との見方もある。
これらの違いは政治状況にも反映されている。
立法会における民主派議員は、香港で定数70のうち23人を占めているが、マカオでは定数33のうち4人にとどまっている。
ただ、マカオでデモが起きないわけではない。14年5月には、政府高官に巨額の退職金と年金を支給する法案への抗議デモが行われ、主催者発表で2万人が参加。法案を撤回させた。
「マカオ市民は香港のように自由や民主ではなく、政府の悪政に立ち上がる。黙っているわけではない」と蘇氏は話す。
こうした市民の声を政治に反映させようと、マカオの民主派は香港の民主派同様、行政長官選に普通選挙を導入するよう求める運動を続けている。
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