【安倍首相施政方針演説全文】(3)「無人自動運転で移動を安全・便利に」

 
衆院本会議で行われた安倍晋三首相の施政方針演説=20日午後、国会・衆院本会議場(鴨川一也撮影)

四 成長戦略

(中小・小規模事業者)

 「東洋の魔女」が活躍したバレーボール。そのボールを生み出したのは、広島の小さな町工場です。その後、半世紀にわたり、その高い技術を代々受け継ぎ、今なお、五輪の公式球に選ばれ続けています。

 全国各地の中小・小規模事業者の皆さんが、長年培ったオンリーワンの技術で、地域経済を支えています。しかし、経営者の多くが60歳を超え、事業承継は待ったなしの課題であります。そして、若い世代の承継を阻む最大の壁が、個人保証の慣行です。

 この春から、先代の経営者と後継者から個人保証を取る、いわゆる二重取りを原則禁止いたします。商工中金では、今月から、年間3万件、2兆円の新規融資について、個人保証なしの融資を原則とする運用を開始しました。

 信用保証協会では、個人保証なしで後継者の皆さんの融資を保証する新制度を、4月からスタートします。経営の磨き上げ支援も行い、専門家の確認を得た後継者には、保証料をゼロとします。個人保証の慣行は新しい世代には引き継がないとの強い決意で、あらゆる施策を総動員してまいります。

 7年前、10年ぶりの大改正を行った下請け振興基準を、さらに改正し、対象を拡大します。大企業に対しても、新たに金属産業、化学産業で、自主行動計画の策定を求めます。業界ごとの取引慣行に詳しい専門人材を下請けGメンに採用し、下請け取引のさらなる適正化に取り組んでまいります。

 デジタル技術の進歩は、中小・小規模事業者にとって、販路拡大などの大きなチャンスです。デジタル取引透明化法を制定し、オンラインモールでの出店料の一方的引き上げなど不透明な取引慣行を是正します。

(規制改革)

 IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、人工知能。第4次産業革命の大きな変化の中で、デジタル時代の規制改革を大胆に進めます。

 本年から、無人自動運転を解禁し、中山間地域の皆さんに、安全で便利な移動手段を提供します。自動制御ブレーキを備えたサポートカーに限定した新たな免許制度を設け、その普及を拡大します。

 AIが解析するデータのボリュームが、競争力を左右する時代です。個人情報を匿名化し、その詳細な分析を可能とすることで、ビッグデータの世界をリードしてまいります。

 フィンテックによる多様な決済サービスが登場する中、金融分野の業法による縦割り規制を抜本的に見直します。マイナンバーカードの取得を促し、来年度中に健康保険証としての利用を開始します。あらゆる行政手続の電子化を進め、対面での確認が必要なものなどを除き、2024年度までに完了いたします。

 技術の進歩による急激な変化に対し、消費者の安全・安心を確保していきます。個人データの利用停止を可能とするなど、個人情報保護を強化します。あおり運転を刑罰の対象とし、道路へのカメラ設置などにより、悪質な運転者の取り締まりを徹底します。空港施設へのドローン飛行を禁止し、飛行経路の安全を確保してまいります。

(イノベーション)

 吉野彰先生のノーベル化学賞受賞を、心よりお慶(よろこ)び申し上げます。

 吉野先生に続く、未来を担う若手研究者に、大胆に投資します。自由な発想で挑戦的な研究に打ち込めるよう、資金配分を若手に思い切って重点化します。安定的なポストを確保し、海外留学を含めたキャリアパスを確立することで、若者が将来に夢や希望を持って研究の世界に飛び込める環境を整えます。

 変化のスピードを先取りし、これまでにない価値を生み出す鍵は、ベンチャー精神です。大企業などからベンチャー企業への投資を税制で支援し、いわゆる自前主義からの発想の転換を図ります。国の研究機関によるベンチャー企業への出資を促すことで、蓄積された研究成果や技術を新しい産業へと成長させてまいります。

 第4次産業革命がもたらすインパクトは、経済のみにとどまらず、安全保障をはじめ、社会のあらゆる分野に大きな影響を及ぼします。国家戦略としての取り組みが必要です。

 その基盤インフラは、通信です。5G(第5世代)、ポスト5G、さらにその先を見据えながら、大胆な税制措置と予算により、イノベーションを力強く後押しします。安全で安心なインフラが、これからも安定的に供給されるよう、グローバルな連携の下、戦略的に取り組んでいきます。

 次世代暗号などの基盤となる量子技術について、国内外からトップクラスの研究者・企業を集める、イノベーション拠点の整備を進めます。

 月を周回する宇宙ステーションの整備、月面での有人探査などを目指す新たな国際プロジェクトに、わが国として、その持てる技術を駆使し、貢献いたします。将来的な火星探査なども視野に、人類の新たなフロンティアの拡大に挑戦します。

 Society5.0の時代にあって、教育の在り方も、変わらなければなりません。本年から小学校でプログラミング教育を開始します。4年以内に、全ての小学生、中学生に一人一台のIT端末をそろえます。企業エンジニアなど多様な外部人材を登用することで、新しい時代の教育改革を進めます。

(アベノミクス)

 今般取りまとめた新しい経済対策は、まさに、安心と成長の未来を切り拓くものであります。事業規模26兆円に及ぶ対策を講じることで、自然災害からの復旧・復興に加え、米中貿易摩擦、英国のEUからの離脱など海外発の下方リスクにも万全を期してまいります。

 日本経済は、この7年間で13%成長し、来年度予算の税収は過去最高となりました。公債発行は8年連続での減額であります。経済再生なくして財政健全化なし。この基本方針を堅持し、引き続き、2025年度のプライマリーバランス黒字化を目指します。

 この6年間、生産年齢人口が500万人減少する一方で、雇用は380万人増加しました。人手不足が続く中で、最低賃金も現行方式で過去最高の上げ幅となり、史上初めて全国平均900円を超えました。足元では、9割近い中小企業で、賃上げが実現しています。

 雇用環境が好転している今、就職氷河期世代の皆さんの就業を、3年間集中で一気に拡大します。この世代に対象を絞った求人を解禁するなど、あらゆる施策を講じ、意欲、経験、能力を活かせるチャンスを広げていきます。

 兼業や副業をやりやすくするため、労働時間に関するルールを明確化します。労働施策総合推進法を改正し、大企業に中途採用・経験者採用比率の開示を求め、多様で柔軟な働き方が可能となるよう、改革を進めます。

 経済社会が大きく変化する中、ライフスタイルの多様化は時代の必然であります。今こそ、日本の雇用慣行を大きく改め、働き方改革を、皆さん、ともに、進めていこうではありませんか。=(4)に続く