【安倍首相施政方針演説全文】(5完)「新時代の日本外交を確立する正念場」

 
衆院本会議で施政方針演説する安倍晋三首相=20日午後、国会・衆院本会議場(川口良介撮影)

六 外交・安全保障

(積極的平和主義)

 日本が、初めてオリンピック精神と出会ったのは、明治の時代であります。その時の興奮を、嘉納治五郎はこう記しています。

 「世界各国民の思想感情を融和し以(もっ)て世界の文明と平和とを助くる」

 オリンピック・パラリンピックが開催される本年、わが国は、積極的平和主義の旗の下、戦後外交を総決算し、新しい時代の日本外交を確立する。その正念場となる1年であります。

 日朝平壌宣言に基づき、北朝鮮との諸問題を解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指します。何よりも重要な拉致問題の解決に向けて、条件を付けずに、私自身が金正恩(キム・ジョンウン)委員長と向き合う決意です。

 もとより、わが国の国民の生命と財産を守るため、毅然(きぜん)として行動していく。その方針はしっかりと貫いてまいります。米国、韓国をはじめ国際社会と緊密に連携してまいります。

 北東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中で、近隣諸国との外交は、極めて重要となっています。韓国は、元来、基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国であります。であればこそ、国と国との約束を守り、未来志向の両国関係を築き上げることを、切に期待いたします。

 プーチン大統領と長門で合意した、元島民の方々の航空機によるお墓参り、そして四島での共同経済活動は、着実に前進しています。1956年宣言を基礎として交渉を加速させ、領土問題を解決して、平和条約を締結する。この方針に、全く揺らぎはありません。私と大統領の手で、成し遂げる決意です。

 日本と中国は、地域と世界の平和と繁栄に、ともに大きな責任を有しています。その責任をしっかり果たすとの意志を明確に示していくことが、今現在の、アジアの状況において、国際社会から強く求められています。首脳間の往来に加え、あらゆる分野での交流を深め、広げることで、新時代の成熟した日中関係を構築してまいります。

(安全保障政策)

 いかなる事態にあっても、わが国の領土、領海、領空は必ずや守り抜く。安全保障政策の根幹は、わが国自身の努力に他なりません。

 この春から、航空自衛隊に「宇宙作戦隊」を創設します。さらには、サイバー、電磁波といった新領域における優位性を確保するため、その能力と体制を抜本的に強化してまいります。

 昨日、日米安全保障条約は、改定の署名から60年を迎えました。日米同盟は、今、かつてなく強固なものとなっています。その深い信頼関係の下に、2020年代前半の海兵隊のグアム移転に向け、施設整備な

どの取り組みを進めます。抑止力を維持しながら、沖縄の基地負担軽減に、一つひとつ結果を出してまいります。

 日米同盟の強固な基盤の上に、欧州、インド、豪州、東南アジア諸国連合(ASEAN)など、基本的価値を共有する国々とともに、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指します。

(国際社会の課題解決)

 この7年間、80の国・地域を訪問し、800回を超える会談を重ねてまいりました。各国首脳との信頼関係の上に、国際社会が直面する共通課題の解決に向け、世界の中で、主導的な役割を果たしていく覚悟です。

 中東地域における緊張の高まりを深く憂慮します。わが国は、全ての関係者に、対話による問題解決と自制的な対応を求めます。これまで培ってきた中東諸国との友好関係の上に、この地域の緊張緩和と情勢の安定化のために、これからも、日本ならではの平和外交を粘り強く展開いたします。エネルギー資源の多くをこの地域に依存するわが国として、こうした外交努力と併せて、自衛隊による情報収集態勢を整え、日本関係船舶の安全を確保します。

 自由貿易の旗手として、21世紀の経済秩序を世界へと広げてまいります。EUから離脱する英国とも、速やかに通商交渉を開始します。TPPのさらなる拡大や、インドを含めた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉を主導します。データ流通の新たな国際ルールづくりを、大阪トラックでリードしていきます。

 20カ国・地域(G20)で合意したブルー・オーシャン・ビジョンには、既に59の国から賛同を得ています。この流れをさらに世界へと広げていくことで、2050年までの海洋プラスチックごみによる新たな汚染ゼロの実現を目指します。

 わが国は、5年連続で温室効果ガスの削減を実現いたしました。2013年度比で11・8%の削減は、先進7カ国(G7)の中で英国に次ぐ削減量です。長期戦略に掲げた脱炭素社会を早期に達成するため、ゼロエミッション国際共同研究拠点を立ち上げます。米国、EUなどG20の研究機関の叡智(えいち)を結集し、産業革命以来増加を続けてきた二酸化炭素(CO2)を、減少へと転じさせる、「Beyondゼロ」を目指し、人工光合成をはじめ革新的イノベーションを牽引(けんいん)します。

 世界の平和と安定、自由で公正で開かれた国際ルールの構築、気候変動をはじめとした地球環境問題への挑戦。より良き世界の実現に向かって、新しい時代の日本外交の地平を、皆さん、ともに、切り拓いていこうではありませんか。

七 おわりに

 「人類は4年ごとに夢をみる」

 1964年の記録映画は、この言葉で締めくくられています。新しい時代をどのような時代としていくのか。その夢の実現は、今を生きる私たちの行動にかかっています。

 社会保障をはじめ、国のかたちに関わる大改革を進めていく。令和の新しい時代が始まり、オリンピック・パラリンピックを控え、未来への躍動感にあふれた今こそ、実行の時です。先送りでは、次の世代への責任を果たすことはできません。

 国のかたちを語るもの。それは憲法です。未来に向かってどのような国を目指すのか。その案を示すのは、私たち国会議員の責任ではないでしょうか。新たな時代を迎えた今こそ、未来を見つめ、歴史的な使命を果たすため、憲法審査会の場で、ともに、その責任を果たしていこうではありませんか。

 世界の真ん中で輝く日本、希望にあふれ誇りある日本を創り上げる。その大きな夢に向かって、この7年間、全力を尽くしてきました。夢を夢のままで終わらせてはならない。新しい時代の日本を創るため、今日、ここから、皆さん、ともに、スタートを切ろうではありませんか。

 ご清聴ありがとうございました。=おわり